米国のトランプ次期大統領がビデオ声明で、来年1月の就任初日に環太平洋連携協定(TPP)からの脱退を通告すると発表した。

 大統領選の公約ではあったが、選挙後に明言したのは初めてである。

 トランプ氏は声明で大統領就任から100日以内に実施する政策を国民に向けて説明。その筆頭にTPPをあげ、「われわれの国にとって潜在的な災難になる」と脱退の意思を示した。

 TPP発効には参加12カ国中6カ国以上が批准し、その国内総生産(GDP)の総額が全体の85%を超える必要がある。約60%を占める米国抜きには発効できない仕組みだ。

 これで発効は絶望的な状況である。 

 「パリ協定」からも離脱を表明するなど、トランプ氏の自国中心主義や保護主義は警戒する必要がある。

 しかし気になるのはことここに至る日本側の対応だ。

 安倍晋三首相は17日、ニューヨークのトランプタワーで世界の首脳に先駆けてトランプ氏と会った。会談後「トランプ氏は信頼できる指導者だと確信した」と語っている。

 その足で駆け付けたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議では、あらゆる保護主義を排除する決意を表明した首脳宣言を採択した。

 会談から4日後、APEC翌日のTPP離脱表明である。安倍首相自身が「米国抜きでは意味がない」と語っていることからも分かるように、日本政府は突然はしごを外された形だ。

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 参加国に波紋が広がる中、政府は「立ち止まることはできない」として、TPP承認案などを今国会で成立させる方針を重ねて強調している。

 TPPを巡る情勢が大きく変わったのに、それでも立ち止まらないというのは、冷静さを欠く対応である。

 米国抜きで発効させる代案があるのか、その場合の影響や経済効果はどうなのか、きちんとした説明を求めたい。

 トランプ氏は声明で「米国に雇用や産業を取り戻す公正な2国間の貿易協定」についても言及。TPPに代わる2国間の枠組みを模索しているようだ。

 選挙戦で米軍駐留費の負担増を訴えたように、2国間協定で日本側に大幅な譲歩を迫る可能性も否定できない。

 TPPは自由貿易というだけでなく、日米両政府は中国をにらんだ安全保障体制という側面も強調していた。

 米国の離脱は、アベノミクスとともに安倍外交の再考を促すことになるだろう。  

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 自由貿易とグローバル化への反感、広がる貧富の差がトランプ大統領を誕生させた背景にあったことも直視しなければならない。

 共同通信の世論調査で6割を超える人々がTPP承認案の慎重審議を求めているのは、日本でも格差拡大の懸念が消えないからだ。

 国会が今やるべきことは、発効のめどが立たない協定の成立を急ぐのではなく、懸念に真正面から向き合うことである。