子どもが発したSOSを、親からの再三の訴えを、学校も市教育委員会も把握しながら真摯(しんし)に受け止めず、放置した。どこに問題があったか、徹底的に検証し公表すべきだ。

 東京電力福島第1原発事故で福島県から横浜市に自主避難した中学1年の男子生徒(13)が、避難直後からいじめを受けて不登校になった問題である。

 両親は23日の会見で、市教委や学校に対応を求めても動いてもらえず「八方ふさがりだった」と振り返った。追い詰められ「息子は本当にぼろぼろになった」と明かした。

 東日本大震災と原発事故に遭い、安心して暮らせる場所を求めて避難したはずだ。心ない言動で苦しめられた親子の胸の内を思うと、やりきれなさと怒りがこみ上げる。

 市教委の第三者委員会がまとめた報告書や両親の話によると、男子生徒は小学2年だった2011年8月、横浜市立小学校に転校した。その直後から名前に「菌」を付けて呼ばれたり、蹴られたりされた。ノートや教科書が隠されるようにもなった。

 小5の時に同級生から「(原発事故の)賠償金をもらっているだろう」と言われ、ゲームセンターで10人前後の遊興費などを負担した。1回当たり5万~10万円を家から持ち出し、総額は約150万円に上ったという。

 最近公表された小6の時の手記では「ばいきんあつかいされて、ほうしゃのうだとおもっていつもつらかった」とつづっている。気持ちを察すると胸が痛む。

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 「いじめ防止対策推進法」は、心身や財産に重大な被害が生じた疑いがある場合などを「重大事態」と定義し、学校や教委に事実関係の調査を義務付ける。今回の事例は当然、迅速に対応すべきものだ。

 学校は、生徒本人から中傷や身体的な暴力があったとの訴えを受けていた。金銭の授受について、両親の相談を受けて調査した神奈川県警からの情報提供もあった。市教委も、両親から「学校を指導してほしい」と求められていた。にもかかわらず、学校も市教委も積極的に動かなかった。連携した対応もなかった。第三者委が「教育の放棄」と断じたのは当然だ。

 学校は内部調査の結果として、金銭の授受は「男子生徒が自ら渡した」と説明している。第三者委も指摘しているように「小学生が万単位の金銭を『おごる・おごられる』状況を起こしていることは教育上問題」だ。なぜ、生徒の気持ちに寄り添い適切な指導ができなかったか、疑問を禁じ得ない。猛省すべきだ。

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 救いなのは、何回も「死のうとおもった」という生徒が「しんさいでいっぱい死んだからつらいけどぼくはいきるときめた」と自らを奮い立たせ、前を向いたことだ。両親を通し、いじめに苦しむ全国の子どもたちに「苦しいけど死を選ばないで」と呼び掛けた。

 今回のいじめの背景には、震災避難者や原発事故が起きた福島県の現状が正しく伝わっていない実態がある。社会の誤解や偏見が子どもたちにも影響を及ぼしていることに目を向ける必要がある。