庶民の多くがまだ読み書きの端緒についたばかりの明治時代、既に中央の華やぐ文学結社や文学雑誌に投稿し、浪漫を抱いた若い表現者たちがいた。教科書などでは知る事のなかった明治の沖縄文学。詩や俳句、短歌の短詩形ジャンルが著者によって掘り起こされ、興味津々に楽しませてくれる一冊で誰にでも分かりやすい研究書である。

「沖縄の投稿者たち」 仲程昌徳

 明治28(1895)年。雑誌『文庫』に、山里翠山や名嘉元江山、高野美登らが歌壇に登場する。歌材に蛍、鹿、新年雪が見られるのは既に本土へ渡っていたからだろう。俳句界で活躍をみせた麦門冬は何処か人柄に親しみの持てる俳人で、「はまのや」のペンネームは沖縄文学の父、伊波普猷。詩壇の北原白秋や河井酔茗らと並ぶ。琉球語の研究者として外国人を紹介しているのも興味深い。

 浪漫と抵抗、甘美な恋歌で一世を風靡(ふうび)した与謝野鉄幹、晶子の結社「明星」には最も愛された山城正忠が投稿した。詩人の末吉詩華は後の末吉安持。その詩風は『明星』の香りにあふれるが不幸にも不慮の事故で夭折(ようせつ)した。著者は鉄幹の追悼文も紹介している。

 『創作』には上間笛秋(正雄)と末吉落紅(安恭)の作品が、『スバル』には膨大な作品が投稿されている。ほどなく消えていった多くの作家たちの後、華々しく登場するのは、最近の中央短歌雑誌でも取り上げられている摩文仁朝信。『文章世界』には投稿者の住所も掲載されている。『ホトトギス』には「地方俳句界」があり、『趣味』という砕けた名の文学雑誌で作品はかなり身近になっていく。

 資料発掘と整理研究で20~30年の歳月を費やし、いまだ未完とは著者の言。「若い研究者たちの研究の手がかりとなってほしい案内書で、専門書ではない」と言うが、読者にとっては発見と驚きの沖縄の明治文学世界だ。

 息苦しい明治の封建社会で文学に夢と浪漫を抱き日本の文学に執心した若者たちがいた。今の沖縄に彼らがいたら、文学はどんな世界が創作できたのだろう。抵抗の精神を貪欲に描いたのではないだろうか。多くの方の愛読書となる事、必至だ。(玉城洋子・歌人)

ボーダーインク・2160円 なかほど・まさのり 1943年テニアン島生まれ。74年法政大学大学院修士課程修了。73年11月琉球大学文学科助手として採用され、2009年教授で退官。「山之口貘-詩とその軌跡」「小説の中の沖縄」「雑誌とその時代」など著書多数