芭蕉布作りの世界に引き込まれていくような感覚である。糸芭蕉の畑が目の前に広がり、糸作りや染色、織に励む人々の仕事の音が聞こえてきそうだ。冒頭から柳宗悦は「今どきこんな美しい布はめったにないのです」と讃(たた)える。正しさや美しさを伝えるため柳自身が心がけた分かりやすく、リズム感のある言葉で生き生きと記されている。自然であり緻密である芭蕉布作りの空気が投影され、柳の驚きと感動が伝わってくる。

芭蕉布物語 柳宗悦

 民藝運動の創始者である柳は、一般民衆の間で作られ、使われる日常の道具に美しさを見いだし全国を調査・蒐集(しゅうしゅう)する中、沖縄を「発見」した。柳が沖縄の地に初めて足を踏み入れたのは1938年暮れのことである。豊かな自然の恵みと深い信仰心に育まれた伝統の手仕事は、まさに「民藝の宝庫」を見る思いであったという。柳は40年までに4回にわたり沖縄を訪問した。当時、柳ら一行は「沖縄病」という表現をしている。まるで熱病にでもかかったように、夢中になって工芸や文化を調査した。「驚くべき美の王国」と言わしめた沖縄で、独自の輝きを放つ豊かな美が柳の美意識を純粋にくすぐったのは言うまでもない。

 また松井健氏による解題(著書の解説)は、「芭蕉布物語」を通して柳宗悦と対話していると思えるほどである。芭蕉布についてはもちろん、手仕事から生まれる美しさ、柳の思想、沖縄滞在の意義、変化する社会情勢や戦後の芭蕉布復興などが次々とテーマになり、平良敏子(人間国宝)や民藝運動の同志、外村吉之介も登場する。

 柳が生きた時代は、大正から昭和、戦争など激動の時代であった。機械化と大量生産により変容する工芸の姿に危機感を抱き多くの文章を残している。さて急激なスピードで変化する現代もいま一度、立ち止まってみよう。本書で柳と会話し、その美意識に触れ、手仕事や自然、伝統、信仰から生まれる美しい豊かなものについて考える機会にしてほしい。(外間一先、県立博物館・美術館主任学芸員)

榕樹書林・1620円 やなぎ・むねよし 1889~1961年。民藝運動の理論家で組織者。膨大な著書をまとめた「柳宗悦全集」がある▽まつい・たけし 1949年大阪市生まれ。東京大名誉教授。「柳宗悦と民藝の現在」など著書多数