来春から使われる高校日本史の教科書で、全国のシェア5割を占める山川出版「詳説日本史 改訂版」の中に、沖縄戦の「集団自決」に関する記述が復活した。

 同社は、2005年度検定に申請した教科書から「集団自決」の記述をなくしており、復活は10年ぶりとなる。教科書大手による記述復活は、教育現場への影響が大きく一定の評価はできる。

 教科書・参考書のほか歴史一般書を多く扱う同社は、02~06年版教科書で沖縄戦の特色として「日本軍将兵と島民は本島の南端に追いつめられ、看護要員の女学生たち(『ひめゆり隊』など)の悲劇や、日本軍の島民に対する残虐行為・集団自決の強要などが生じた」と記述していた。

 それが一転、07年版から「日本軍の残虐行為」や「集団自決の強要」の記述が消えた。

 符合するのは、同年版教科書の検定作業が行われる05年に、一部の研究者団体が教科書から「集団自決は軍命」とする記述の削除を求める決議をしたことだ。教科書問題に詳しい専門家は「皇軍の復権を目指す勢力の台頭を同社が忖度(そんたく)したのではないか」とみる。

 今回、復活したとはいえ「島民を巻き込んでの激しい地上戦となり、『集団自決』に追い込まれた人びとも含めおびただしい数の犠牲者を出し」とする記述は、06年版以前に比べれば不十分だ。

 沖縄タイムスは今回、同社に「集団自決」記述復活の経緯や意図を問い合わせたが、1日現在、回答はない。

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 大手の教科書から「集団自決」の記述が消えた影響は大きかった。

 翌06年度に文部科学省は「沖縄戦の実態について誤解するおそれのある表現」として、「集団自決」における「軍命」を認めないとする検定意見を付けた。その結果、他出版社の教科書から軍の強制性を示す記述が一掃されたことは記憶に新しい。

 「集団自決」は、沖縄戦の実相を知る上で重要な鍵となる。米軍への投降を許さなかった日本軍が、住民に手りゅう弾を渡すなどして発生。「強制集団死」とも称され、戦場での住民犠牲の一端や軍隊の残虐性を示す歴史的事実だ。

 史実を隠すことにつながる文科省検定に異議を唱えようと07年に開かれた「教科書検定意見の撤回を求める県民大会」には、復帰後最多となる約11万人(主催者発表)が参加した。

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 同年12月、文科省は「集団自決」に軍の関与を認める各社の記述を了承したが、軍の強制性を排除する検定意見はいまだ撤回されていない。そのため現在の高校歴史教科書は「なぜ集団自決が起きたのか」という子どもたちの疑問に、答えることができていない。

 歴史をありのままに知り、学ぶことは歴史教育の原点だ。特に沖縄戦をはじめとする戦争の体験は、今の社会のありように深くかかわっている。それを鑑みれば、史実を過不足なく伝える記述こそが、平和な未来へつながるバトンとなる。