「私の中の学問体系は、加計呂麻で確立されたと言っても過言ではない。哲学や神学は決して大学だけに存在するのではなく、世の中のどの民族の小村にも存在するものであることに目覚めた」と、ヨーゼフ・クライナー氏(ボン大学名誉教授)は本書の末尾に書いている。欧米における沖縄研究・日本研究を牽引(けんいん)してきたその人が、自分の原点は奄美の加計呂麻島だと述べているのである。

南方新社・3780円/JOSEF・KREINER 1940年オーストリア・ウィーン生まれ。ボン大名誉教授、東京国立博物館客員研究員、法政大国際日本学研究所客員所員。「世界の沖縄学-沖縄研究50年の歩み」など著書多数

 54年前の1962年、クライナー氏は加計呂麻に滞在し、フィールドワークを行っていた。オーストリアのウィーン大学で民族学を学ぶ学生であり、交換留学生として東京大学に身を置いていた。彼が最初の調査地に選んだのが加計呂麻だったのである。その調査の成果は、「奄美大島の村落構造と祭祀組織-加計呂麻島須子茂部落のノロ制度」(63年)などに結実している。

 滞在中、島の行事や祭祀(さいし)に関する詳細なメモを作成し、写真を撮影した。その膨大な写真を、クライナー氏は加計呂麻が所属する瀬戸内町に寄贈した。同町の教育委員会は、町制施行60周年を記念する事業として写真集を編集・出版したのである。

 ページをめくると、クライナー氏が自分の学問上の原点だと言った理由が納得できる。祭祀に関する写真が含まれているのは当然だが、その目線よりも、島の人びとの生活風景、特に子供たちのたたずまいが見事に写し出されている。自分が滞在する場所は、学問上の情報源である前に、多面的に呼吸し続けている生活者の現場なのだ、という思いが伝わってくる。

 表紙を飾る写真はじつに印象的だ。クライナー氏の乗った船を、子どもたちや大人たちが見送っている。おそらく、クライナー氏の原風景だと思う。

 日々営まれる場への共感を基盤にして始めて、学問を論ずることの意味を模索できた、と言うクライナー氏の思いがにじみ出ている。掲載された写真たちは、ここで暮らす者たちこそが主役なのだ、と言っている。この写真集を編んだ町教育委員会の仕事もまた特筆に値する。(高良倉吉・琉球大学名誉教授)