渡辺謙、松山ケンイチ、宮崎あおい、綾野剛…。一線級俳優陣の好演で今年の日本映画界で話題をさらった「怒り」(李相日監督)。その出演者の中にうるま市の高校3年生、佐久本宝(18)の名前がある。ビッグネームに埋もれることなく光を放ち、二つの映画賞新人賞にノミネート。「すごい経験をさせたもらった」と濃密な銀幕デビューを振り返る。(学芸部・松田興平)

デビュー作の映画「怒り」で存在感を放った佐久本宝=うるま市高江洲

 「怒り」は吉田修一の同名小説が原作。夫婦惨殺事件を軸とし、「千葉編」「東京編」「沖縄編」に分かれる。

 佐久本は「沖縄編」で広瀬すず演じる女子高生・小宮山泉に思いを寄せる知念辰哉役を務めた。約1200人が挑んだというオーディションを勝ち抜いた、芯のある表現力を持つ佐久本。序盤の甘酸っぱい空気を暴力が吹き飛ばすシビアなパートを森山未來や広瀬らと作り上げた。

 舞台経験は豊富で現代版組踊「肝高の阿麻和利」の主役を務める。ただ、舞台と映画は全く勝手が違ったという。

 映画界で厳しいと評判の李監督からリハーサル前に洗礼を受けた。「猿になって」と言われ面食らった。先行きに不安を抱きつつ堂々と助監督と「縄張り争い」を演じた。

 台本はいつも当日渡し。せりふは現場で覚えた。撮影以外の時間は原作を読みふけり、まだ渡されていない台本を思い描いた。演技の細かい指示はなく、言い回しや表情は任され、同じシーンを何度も撮り直し。デートの場面は3日かかった。離島に渡るシーンのために船舶免許も取得。撮影班全員でリアリティーを追い求めたという。

 「少しずつ監督の狙いが分かってきた。戸惑ってばかりだったけど森山さんとすずちゃんに引っ張ってもらえた」と感謝する。東京滞在時には監督宅に寝泊まり。「優しくて厳しくて、お父さんみたいな存在になりました」と顔をほころばせる。

 東京での完成披露試写会に行けなかったことは心残り。でも現場からビデオ電話で松山や広瀬、森山らに「今から打ち上げだよ」と冗談交じりに誘われたことで、大作に関わった感慨が込み上げた。

 卒業後は役者の道を進むつもりだ。一流俳優陣と空気をともにし、演技への興味が深まった。「とことん役を自身に落とし込む森山さんのような俳優が憧れ」と言う。

 その先の理想像もぼんやり浮かんできている。あどけない表情を引き締めて語る。「演技って、うそを重ねることだと思う。それでも何か自分の中にある本心を伝えられる役者になりたい」

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 佐久本が出演する「肝高の阿麻和利」は12月10、11日にうるま市のきむたかホールで上演。問い合わせはあまわり浪漫の会、電話098(978)0608