「この怪物は倒れはしたが、決して命を失っておらず未だ危険な存在だ」。米紙ニューヨーク・タイムズが、1945年8月14日付の紙面にこんな論説記事を掲載した

▼記事は「よってこの怪物の牙と骨を徹底的に抜き取り、解体しなければならない」と続く。「怪物」とは、太平洋戦争で敗戦国となった日本のことである

▼国力で圧倒的に劣る小国日本が戦いを挑んだことが、理解不能だったのだろう。その「怪物」が米国に牙をむいた41年12月8日の真珠湾攻撃からきょうで75年になる

▼開戦前、当時の近衛内閣は日米の国力比較を緻密に行い、「日本必敗」との結論を出した。だが、責任論を恐れ、内閣と軍部のリーダーや昭和天皇さえ「開戦中止」を口にできなかった

▼作家の司馬遼太郎さんは「一人のヒトラーも出ずに、大勢でこんなばかな40年を持った国があるだろうか」と、自著「この国のかたち」に書いている。日露戦争から太平洋戦争敗戦までの約40年間を振り返り、狂信的なリーダーが出なかった日本がなぜ破滅への道を突き進んだのか、という問いかけである

▼戦後71年。牙と骨を抜かれた「怪物」は、過度な対米依存体質が染みついたかに見える。その一方で、平和国家の鎧(よろい)を脱ぎ、「戦争のできる国」に変質しつつある。司馬さんの重い問いかけの意味を考える。(稲嶺幸弘)