韓国初の女性大統領として歴史に名を刻みながら、憲政史上かつてない汚点を残すことになった。 

 朴槿恵(パククネ)大統領に対する弾劾訴追案が国会で可決され、大統領権限が停止された。

 罷免の是非を最終的に判断するのは憲法裁判所だが、民主化以降最低の5%にまで落ち込んだ支持率が示すように、もはや国政運営の最高責任者としての求心力は失われている。

 野党は訴追案で、朴氏が友人の女性に機密資料を提供し国政に介入させ、企業に金を出すよう強要したことなどが、憲法や法律に違反すると指摘した。

 採決では可決の条件である「国会議員の3分の2に当たる200人」を大きく上回る234人が賛成票を投じた。与党セヌリ党からも約半数が賛成に回った。

 弾劾を求める国民の怒りに突き動かされたのだろう。

 既に検察は友人の女性や大統領府の前高官ら3人を職権乱用などの罪で起訴し、朴氏も「共謀関係があった」と認定している。

 大統領府に捜査の手が入る異例の事態で、現職大統領が「容疑者」として捜査対象になるのももちろん初めてだ。

 この間、朴氏自身は無実を訴えているが、検察の聴取には一切応じず、会見では記者の質問も受け付けないなど、その説明はあまりにも不十分である。

 国民と国会の意思を重く受け止めるのなら、疑惑に対しきちんと説明責任を果たし、問題の全体像を明らかにすることが政治家としての義務である。

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 疑惑発覚後、ソウル中心部では毎週のように、大統領の即時退陣を求め大規模デモが繰り広げられている。

 日本では政治スキャンダルとしてセンセーショナルな報道も目に付くが、通りを埋め尽くす100万とも200万ともいわれる人々の怒りは、韓国政治や社会の病巣にも向けられている。

 韓国のすさまじい受験競争は就職難の裏返しで、20代後半男性の失業率は10%を超えている。一方、創業者一族が支配する財閥には富が集中し、大きな格差が生まれている。

 人々が拳を振り上げているのは、大統領に近い人たちだけが利権をむさぼり、政界と企業が癒着するという疑惑の構図に対してでもある。

 激しい闘争をへて韓国社会が勝ち取った民主主義的価値が揺らいでいることが、怒りの本質ではないか。

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 長引く政治の混乱は経済や外交にも影響を及ぼし、韓国政治はこれまでにない危機に直面している。混乱の収拾は北朝鮮核問題への対応など東アジアの安定という側面からも急がなければならない。

 朴氏の職務が停止された以上、一日も早く安定を取り戻すために、与野党が知恵と力を合わせ、危機を乗り越える必要がある。

 政局は次期大統領選をにらんだ駆け引きへと移っている。「路上の声」が求めているのは、不正腐敗に毅然(きぜん)とした態度で臨む高い倫理観を持った指導者だ。