琉球音楽なかんずく三線の話になると人々は目を輝かすが、その三線の伝播(でんぱ)についてどこまで把握されているのか、という事になるとかなり心もとない、というのが実情である。

榕樹書林・4104円

 琉球史は概して文字史料の伝存が少なく、三線の話もほとんどが言い伝えで根拠の乏しいものが多い。その中で小島瓔禮(よしゆき)氏が1975年に刊行した『琉歌往来』(風信社)は出色の好著である。小さく地味だが古書を入手し拾い読みした。三線の伝播を日本の長唄の形成過程を踏まえて、推論するなど、他にはないユニークな視点から、しかし学者らしく綿密に叙述されているのだ。この本は私の記憶の片隅にずっとあり、時々その存在を忘れるな、と言われているような気持ちになった。

 ある時小島先生との話で『琉歌往来』の話になった。聞くと発行部数300部にも満たないという。先生の友人の一方的好意で出してくれたそうなのだが、それにしてもこれでは広く行き渡っている、ということにはならない。せっかくの本がこのままではもったいない、と思い、先生に改訂新版でタイトルも変更してどうでしょうか、と提起し、琉球弧叢書の1冊として発行することになったのである。

 しかし、小島先生は琉球大学を定年後、母校国学院大学で教鞭(きょうべん)をとられ、かつ幾つもの公的機関の編纂(へんさん)事業に関わっておられたので作業がはかどらず、日の目を見たのは企画が持ち上がってから3年も経(た)ってからであった。新しいタイトルは『歌三絃往来』。より本の内容に即したものとなった。本書は専門の筋からの評価は大変高い。

 三線は沖縄の芸能に大きな飛躍をもたらしたが、それはヤマトでも同様で三線から三味線が生まれ長唄もできたし、民謡の全国的広がりも成し遂げられたのだと言える。沖縄文化がヤマト文化に大きな影響を与えたことを、改めて認識するためにも、ぜひこの本を読んでもらいたいものだ。(武石和実・榕樹書林代表)