辺野古、高江の地に立つたび、巨大な力の軋(きし)みのただなかに投げ込まれたような感覚をおぼえる。国家の圧倒的な力、歴史の濁流の前で、個人はいかに無力か-。本書は、逆に、巨大な軋みの中で人々がいかに生きたかを緻密にたどることで、71年前の沖縄戦の正体を明らかにし、歴史に新たな意味を与えようという果敢な試みだ。

名護市教育委員会・4000円/執筆者は東江平之、安藤由美、池尾靖志、石原昌家、上杉和央、浦島悦子、大城将保、大城道子、小原麻子、川満昭広、川満彰、北村毅、清水史彦、玉城毅、玉城裕美子、津多則光、豊島緑、鳥山淳、波平勇夫、林博史、洪伸、山本英康、吉川由紀の23氏

 11年の年月をかけ、約400人の証言をもとに、23人の執筆者が880ページ近いボリュームでやんばるの沖縄戦を多角的・重層的に記述する。本島南部に注目が集まりがちだった沖縄戦研究を大きく補うものである。

 名護市史の1冊ではあるが、伊江島や中南部の住民の姿も描かれる。やんばるの戦争の特質として、中南部から避難民が押し寄せたということがある。それにより、戦場となった山岳地帯には日本軍・住民・避難民が入り交じる状況となった。さらに、戦後は米軍の基地建設により沖縄各地の住民が北部の収容所に集められた。つまり、やんばるで起きたことを知ることは、沖縄の戦争と戦後の本質を知ることにつながるのだ。ことに収容所の実態の丹念な検証はハイライトのひとつだ。

 少年ゲリラ部隊・護郷隊と、飛行場守備のために配置された宇土部隊の記述も、決定版と呼べる内容だ。本土の「捨て石」とされた沖縄にあって、やんばるは「捨て石の中の捨て石」だったことが浮かび上がる。

 護郷隊に象徴される弱者の戦争利用。弱い立場の人々への細やかなまなざしは執筆者全員を貫く特徴だ。女性、子供、ハンセン病患者、朝鮮から連行された慰安婦と軍夫、心を病み、飢えやマラリアで命を落とした人々-。国民を守る名目で遂行される戦争が弱者から犠牲にしていくことがよく分かる。

 評者は昨年、護郷隊の番組を制作した際、本書の執筆者であり編さん委員でもある川満彰に協力を請うた。川満の返事は「おじいたちのためになるなら」。この言葉は編集の指針でもあるだろう。現在の沖縄を覆う巨大な力の軋みの正体を考えるためにも、本書で明らかにされた歴史を踏まえたい。(今理織・NHKディレクター)