歯科医院への通院が困難な人のために、歯科医師が患者の自宅や施設などを訪れて診療する訪問歯科診療が利用者に好評だ。高齢者の利用が多く、歯の掃除や入れ歯の調整、虫歯治療を通して、誤嚥(ごえん)性の肺炎予防にも役立っているという。歯科医師は「口から食べる喜びを味わってもらうためにも、もっと多くの人に利用してほしい」と呼びかけている。(学芸部・座安あきの)

介護施設を訪れて、患者の診察にあたる比嘉歯科医院の比嘉良喬院長=豊見城市、良長園

 「こちらは痛くないですか。傷になっているところがあるので、軟こう出しておきますね」

 12日、豊見城市内の介護老人福祉施設「良長園」。比嘉歯科医院(那覇市)の比嘉良喬院長が、女性(94)の奥歯をのぞき込みながら、ゆっくりとした口調で話しかけた。

 廊下にある休憩コーナーが即席の診察室。テーブルには歯の切削ができる機器や道具が広げられ、患者はイスに掛けた状態で診察を受けた。歯茎の痛みを訴えていた女性は、何度か入れ歯のサイズを調整してもらうと、「良くなりました」と笑顔。「ここで治療してもらえるなんて驚いた。痛みがなくなってうれしい」と話した。

 県歯科医師会が運営する県口腔(こうくう)保健医療センター(南風原町)には2015年度、訪問歯科に関する問い合わせが90件あった。介護施設や個人宅からの依頼を受けて、近隣の歯科医院を紹介している。一度利用すると、次回から直接医院とやりとりし、定期的な訪問診療につながっているケースもある。

 良長園では本人や家族からの要望を受けて近隣の歯科医師に訪問を依頼し、週1人程度の利用があるという。

 加齢とともに歯茎がやせて口の周りの筋肉が衰えると、かみ合わせのバランスが悪くなり、痛みや口臭などの原因になる。口腔内の汚れは誤嚥によって肺炎を引き起こす場合があり、特に高齢者にとってはさまざまな病気につながるリスクが高い。

 同医院で在宅療養指導を担当する歯科衛生士の嵩原典子さんは「口腔内は、身近な家族や施設の看護師でも目が行き届きにくい。家族の意識の違いで衛生面に差が出る」と指摘。

 比嘉医師は「口から食べることが生きる力の源。介護する家族にも、清潔に保つことの大切さを知ってほしい」と強調した。

 一方、訪問歯科の普及に取り組む県歯科医師会にとっては「対応できる医師の確保と、あまり待たせずタイムリーに診療にいける体制づくりが課題」(比嘉院長)。利用者の掘り起こしと合わせて、協力医院を増やしていく方針だ。