「会社の深夜の仕事が、東京の夜景をつくっている」

 深夜残業がまん延している職場の異常さを、まつりさんは母親にそんなふうに語っていたという。

 広告代理店最大手・電通の新入社員だった高橋まつりさん(当時24歳)は昨年12月25日、クリスマスの朝に、自ら命を絶った。命日に合わせて母親の幸美さん(53)が手記を公表し、悲痛な思いをつづっている。

 幸美さんは夫と離婚後、働きながらまつりさんを育てた。「あの日から私の時は止まり、未来も希望も失われてしまいました」

 まつりさんは昨年春、電通に入社し、インターネット広告などを担当。本採用となった昨年10月以降に業務が急増した。昨年10月から1カ月の時間外労働は約105時間。亡くなる前、まつりさんは会員制交流サイト(SNS)に「もう体も心もズタズタ」などと書き込んでいる。

 労働基準監督署は、まつりさんの自殺を長時間の過重労働が原因だとして9月末、労災認定した。

 電通は10月から、午後10時に本社ビルを一斉消灯するなど矢継ぎ早に改善策を打ち出したが、社則「鬼十則」にうたわれた「取り組んだら放すな、殺されても放すな」というモーレツ主義の企業体質を変えるのは容易でない。

 25年前には類似の過労自殺が発生、2014年6月、15年8月には労働基準監督署から是正勧告を受けている。

 働き方の全面的な見直しに取り組まない限り、電通には後がない。

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 幸美さんは手記で「日本の働く全ての人の意識が変わってほしい」と訴えている。

 長時間労働の改善は、同一労働同一賃金制の導入とともに、政府が進めている「働き方改革」の中心的な課題になっている。長時間労働はなぜ、なくならないのか。

 「人員が足りない」「業務量が多い」「予定外の不規則な業務が発生した」など、さまざまな理由が挙げられる。 制度的な問題も大きい。長時間労働を制限するはずの労使協定(「36(さぶろく)協定」)に抜け道が用意されているのである。

 労働基準法は労働時間を原則1日8時間、週40時間と規定しており、これを超えて労働者を働かせるためには労使が書面で「36協定」を結ぶ必要がある。

 だが、「36協定」を結んでいない事業所が依然として多いのが実情だ。それだけではない。

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 繁忙期の特例を盛り込んだ特別条項付きの「36協定」を締結した場合、抜け道が生じ、労使協定で定めた残業時間の上限を超える長時間労働が可能になるのである。

 残業の上限規制が必要だ。まつりさんは、ツイッターに「死にたいと思いながらこんなストレスフルな毎日を乗り越えた先に何が残るんだろうか」と書き込んでいる。

 労働者の健康とワーク・ライフ・バランスの確保は、企業経営にとって収益の確保と同じぐらい重要であるという意識改革が必要だ。改革を後戻りさせてはいけない。