「湖に浮かべたボートをこぐように人は後ろ向きに未来へ入っていく」。フランスの詩人、ポール・ヴァレリーの有名な作品の一節にある

▼後ろ向きにこぐボートは、前を見ると、進んできた風景しか目に入らない。人生も一緒で、過去や現在は見えるが、明日の景色を誰もが知らないように人は未来を見通せない

▼厳しい現実を受け止め、見えない明日に向けて必死に生きようとする人たちもいる。昨年4月の地震で甚大な被害を受けた熊本の被災地の皆さんは、一日も早い復興を目指して手を取り合いながら懸命に頑張ってきた

▼熊本の地元新聞社に勤める先輩記者から届いた年賀状には、沖縄から寄せられた支援への感謝の言葉に続き、「(まだ)課題はありますが、熊本は立ち直りつつあります」と綴(つづ)られていた。人の優しさ、支え合うことの大切さを痛感した1年だったという

▼また、福岡に本社がある新聞社に勤め、沖縄勤務の経験もある友人は「昨年も沖縄に対しては心苦しい1年でした」と書き出し、先の読めない沖縄の「明日」を案じていた

▼きのう、企業や組織の多くが仕事始めだった。年末年始の休みで少しなまった体を軽くほぐし、ボートに腰を下ろした方も多いだろう。家族や仲間など、それぞれの「伴漕者(ばんそうしゃ)」とともに、明るい明日を信じてこぎ出したい。(稲嶺幸弘)