本書は、「日米外交が一部の人たちの意見にのみ基づいている」状況を克服し、日本の多様な声をワシントンに届けることを目指す猿田佐世弁護士の実践記録である。自ら事務局長を務める「新外交イニシアティブ」(ND)の設立経緯や活動内容、日米外交の可視化に向けた提言、ワシントンへのロビイングの一例として2016年度の米議会で審議された「国防権限法」から「辺野古が唯一の選択肢」の文言を削除させた実績などが読みやすい筆致で叙述されている。

「新しい日米外交を切り拓く」集英社・1512円/さるた・さよ 1977年東京生まれ。新外交イニシアティブ事務局長。アムネスティ・インターナショナルなどの国際人権団体で活動。日米両国で弁護士登録。2008年コロンビア大ロースクールで、12年アメリカン大でそれぞれ修士号取得

 猿田氏は、政府や議会といった従来イメージされる日米外交の主体以外に、シンクタンクの影響力に注目する。「米国の声」として日本国内で流布される諸言説は、実際には日本政府や「ワシントンの日本コミュニティ」に属する人たちが発し、米シンクタンクに属する少数のアメリカ知日派を介して、日本のメディアで大きく取り上げられるという構造(=「ワシントンの拡声器効果」)の産物であるという。さらに注目すべきは米シンクタンクに対し日本政府・企業が積極的に資金提供を行っているという事実である。

 では「沖縄の声」をいかにワシントンに届けるか。猿田氏は、「地元の人々の声が政治のすべてである」という元米下院議長の言葉を理念的支えとしながら、沖縄の現状を「自分の問題」として米国人に共有してもらうために人権・女性・教育・基地といった普遍的な課題を入り口とすることが効果的であるという。また、米国の圧力に弱い日本だからこそ沖縄側も「ワシントンの拡声器効果」を戦略的に活用すべきだと主張する。このような諸提言は、米国人のみならず日本本土に住む人たちとの認識の距離感を縮める方法としても極めて重要であろう。

 本書は、「沖縄のことを私はわかっているのか」と自問するなかでNDという生き方を見いだした猿田氏の半生そのものである。その意味で単なる現状分析的な啓蒙(けいもう)書ではない。「現在」が現代史研究の対象になるとき、「当時」をリアルに語る一当事者の「史料」としても本書は領有されることであろう。(池上大祐・琉球大准教授)