誰でも故郷に対しては、愛憎含めて興味があるだろう。だから僕のような沖縄で生まれ育ったものが沖縄の本を編集するということは、けっこう役得なことなのだろう。知らず知らずのうちに沖縄に関する知識が増えていくからだ。正直いうと、沖縄に関しては知らないことだらけなのである。

「しまくとぅばの課外授業」ボーダーインク・1728円

 編集者的には恥だが、初めて出会う著者の原稿を前にすると、知的好奇心を満たしてくれる以上に、沖縄の日常生活において実に役に立つなぁと、読者的な視点でつい読んでしまうのだ。

 そんな風に興奮しながら編集したのが本書である。著者の石崎博志さんは琉球大学の准教授で中国語史が専門だが、琉球王国時代に沖縄人が学んでいた中国語(官話)や琉球語を記した中国資料を通して、琉球語自体に研究の枠を広げてきた。沖縄の一般読者に、その研究の一端を様々(さまざま)なトピックとして分かりやすくコラムで伝えるというのが、この本の内容。書き下ろしである。

 送られてきた原稿でまず目を引いたのが、沖縄の難読地名の代表として挙げられる「保栄茂」のことだ。なぜ「ビン」と読むのか。地元の方言でそう読むんだからしかたがない、当て字なんでしょうなどと思っていた僕は、石崎さんの原稿を読んで、なるほどそうだったのか、とすっきりしたのである。ちなみに16世紀の文献資料から見ると当時「保栄茂」は「ポエモ」と言っていたそうだ。それがどうして「ビン」となるのか。きわめて簡単にいうと、何百年か経(た)つ間に、しまくとぅばの発音が変化していったのである。

 このように専門の研究者の間ではよく知られている事柄が一般読者には理解されていないことは多々あるらしい。もったいないことである。僕はこの本の打ち合わせの度に今まで疑問に思っていたしまくとぅばに関することを質問して(まさに課外授業!)、その回答をコラムにしてもらった。これも編集者としての役得なのであった。(新城和博・ボーダーインク編集者)