月1回、全12回のこの連載だが、筆者の専門である地域経済の話に入れないまま5回を経過してしまった。今月も高江での非道にコメントしたいところだが、本旨に立ち返り、沖縄の経済的な自立について書くことにする。


 沖縄経済の足を引っ張っているのは、競争を避け、責任ある立場に立ちたがらない県民性だという話を耳にした。確かに一般論としては、ナイチャーに比べウチナーンチュの生活態度はユルい。だが他のアジア諸国と比べればどうだろう。沖縄と内地の違いも、関西人と関東人の違いも、アジア諸国民と日本人の違いに比べれば小さなものではないか。


 筆者はかつて、世界屈指の国際競争力を持つシンガポールに住んだが、現地人(7割は華僑)のライフスタイルは、ウチナーよりずっとユルかった。逆にいえば、住民がテーゲーでも経済的に自立することは可能なのだ。


 残念ながら沖縄は、シンガポールのような貿易と国際航空と国際金融のハブにはなれない。位置的にも言語環境的にも違いが大きすぎる。


 むしろ沖縄が学ぶべきは、同じく強靭(きょうじん)な国際競争力を持つスイスの観光立国戦略だろう。「観光は低賃金不安定雇用しか生まない」と言われがちだが、世界一人件費水準の高いスイスの800万国民の雇用の相当部分は、観光関連産業が担っている。


 スイス・ツェルマット在住の観光カリスマ・山田桂一郎氏によれば、それを可能にしているのは「地消地産」だ。「地産地消」ではなく「地消地産」。「地」元で「消」費されるものには極力「地」元「産」を、ということである。


 スイスの観光事業者は、高品質なサービスを長期滞在客に提供して客単価を上げ、そのお金を高価な地域産食材や建材の購入に回す。代表的な土産物である時計やアーミーナイフも、ことごとく高単価の国産品だ。そのため観光産業の稼ぎの多くが地域内の商業、農業、建設関係に還流し、地域経済全体を支えている。国民も所得水準が高いので、安全性や品質の高い国産食品を選んで買う習慣がある。


 だがスイスには海も広い耕地もなく、気候も冷涼なので、クルーズ客相手の土産物販売もできないし、地元産の食材にも限りがある。彼らから見れば、産品の豊かな沖縄はうらやましい限りなのだ。


 だがその沖縄では観光客に、高い輸送費をかけて運んできた島外産の食材を提供することが普通に行われている。ましてや一般住民の消費している物資は、多くが内地産かアジア産だ。せっかく観光が稼いだお金が、あっという間に島外に戻る構造になっている。


 必要なのは稼ぎをもっと増やすことではなく、稼ぎをもっと地元に回すことだ。その意識がなければ、ハイテク工場ができようと、IT産業が振興しようと、国際物流基地だのカジノだのができようと、経済的自立は図れない。逆にいえば観光事業者だけでもやり方を改めて行くことで、自立度は大きく高まる。


 県民が、支出の1%でも「シマ」と名の付く物に回すようにすることで、さらに大きな効果が生まれるだろう。


 青い鳥を探す前に、目の前にある宝の箱をまず開けてほしい。(日本総研主席研究員、地域エコノミスト)

(2016年9月4日付沖縄タイムス総合面から転載)

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