厚生労働省は統合失調症などで精神科に長期入院する患者を、2020年度までに最大3万9千人減らす新たな目標を決めた。少人数で暮らすグループホームなどを整備し、退院を促す方針だ。 

 長期入院患者の中には在宅での療養が可能な「社会的入院」も多く、地域で生活できるよう支えていくのが本来の姿である。過去の政策の失敗を教訓に、困難であっても今度こそ「共生」の理念を前へ進めたい。

 全国の医療機関で精神科に入院している患者は14年現在、28万9千人。そのうち「長期」と位置付けられる1年以上は18万5千人で、6割以上を占めている。

 経済協力開発機構(OECD)の報告によると、日本の精神科病床数はOECD平均の4倍と突出しており、「脱施設化」が遅れている。平均入院日数も約280日と長い。

 長期入院は、戦後の隔離収容型の精神医療政策を背景としている。隔離が、精神疾患への偏見や差別を助長し、治った後も行き場がなく社会的入院を余儀なくされてきたのだ。

 精神科に入院する患者の約6割は幻聴や妄想などの症状がある統合失調症である。患者の過半数は65歳以上の高齢者で、認知症で入院している人も約5万3千人に上る。

 認知症は誰もがかかりうる身近な病だ。自分が年をとって認知症を患い、長期間、精神科に入院する姿を想像してみてほしい。

 これ以上問題を放置しておくわけにはいかない。

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 長期入院患者を4万人近く減らすには、入院医療中心から地域生活中心へ、精神科医療の大転換が必要だ。  

 精神科医療の転換は、厚労省が04年に示した改革ビジョンで既に掲げられている。

 当初10年かけて精神科のベッドを約7万床減らす目標だったが、退院後の受け皿となるグループホームなどの整備が進まず、減少は1万8千ほどにとどまった。ベッドを減らせば経営が行き詰まるという病院側の事情もあってのことだ。

 14年には、精神科病院の病床を削減する代わりに、病棟の一部を居住施設に転換する構想が打ち出された。

 病院の敷地内に「退院」させるというおかしな話で、当然ながら「単なる看板の掛け替え」「精神障がい者の隔離が続くだけ」と強い反対運動が起きた。

 当事者目線を欠いた取り組みの反省が必要だ。

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 障害者権利条約は、他の人との平等を基礎に「居住地の選択」や「特定の施設で生活する義務を負わない」ことをうたっている。

 長期入院患者の退院を促す精神科医療の大転換には、財源の裏付けと人的手当てが欠かせない。それがなければ今度の対策も「絵に描いた餅」に終わる。

 グループホームの整備や福祉サービスの拡充、ヘルパーや専門職の増員、外来医療の充実と訪問医療の提供…、地域で患者と家族を支える具体的な計画を示してもらいたい。