本土復帰後の琉球史への関心の高まりにもかかわらず、その基本ともいうべき正史『中山世鑑』『中山世譜』『球陽』は一部研究者にしか読むことのできない「難解」な本であった。原文は漢文だし、たとえ読み下しにされていたとしても、多くの人にとっては高い壁といっていいだろう。そこで、誰でもが「読める琉球の正史」ということで企画したのが現代語による訳注の『中山世譜』であった。

「蔡鐸本 中山世譜」(榕樹書林・4104円)

 琉球王国の代表的な正史である『中山世譜』の著者は誰か、と問われるとほとんどの人は「蔡温」と答える。ところが1998年に当社で刊行した原田禹雄氏による訳注本は蔡温の父、「蔡鐸」によるものである。蔡鐸本の『中山世譜』は、古くからその存在は知られていたものの、行方が分からず失われたものと思われていたが、72年に文化庁の調査で確認されたものである。

 訳注者原田氏の解説によれば、蔡鐸本は先の『中山世鑑』、その後の『蔡温世譜』が日本との関係性をベースにしているのに対し、中国との、とりわけ琉中関係の記録という点では蔡鐸本の方がより正しい、ということである。詳しくは原田氏の『冊封使録からみた琉球』を読んでほしい。

 原田訳注による『蔡鐸本 中山世譜』は、他の訳注本と同様その訳注は微に入り細に入り、親切丁寧といっていい。語彙(ごい)や個々の事歴の説明のみならず、それらが別の本ではどう取り上げられ、その差異はどこからきているのかまで解説しているので、知らず知らずの内に歴史の真実とは何か、ということまで学んでいけるだろう。

 本書の発刊が契機となって、若い世代の琉球史研究者が『中山世鑑』の訳注に挑戦し、2011年に当社から刊行した。この訳注作業にも原田氏は側面から支援してくださった。

 正史の内、いまだ現代語訳が出ていないのは『球陽』のみとなった。

 さて、誰が挑戦するだろうか。(武石和実・榕樹書林代表)