米国が圧倒的な経済力や軍事力、文化力(ソフトパワー)で世界をリードしてきた時代は、過去のものになりつつある。目の前に広がるのは、秩序と安定を失い流動化し多極化する世界である。

 第45代米大統領に共和党のドナルド・トランプ氏が就任した。首都ワシントンが歓声と抗議デモに包まれた異例の就任式。就任演説でトランプ氏が強調したのは、偉大な米国の復活と既成政治への批判、米国第一主義だった。

 「権力をワシントンから国民に返す」との言葉は、自らを大統領に押し上げた白人労働者層を意識したものだ。エリート対庶民の構図を描き出し、「ワシントンは繁栄しても、国民が富を共有することはなかった」と、グローバリズムから取り残された人々に「救い」のメッセージを発信したのである。

 自由・平等といった理念を重視し、社会の融和を呼び掛けてきたオバマ前大統領の就任演説とは大きく異なる。

 続けて訴えたのは米国第一主義という保護主義的政策だ。

 「物作り、企業、雇用を奪う外国から、国境を守らなければならない」との主張は、世界に衝撃を与えた。

 トランプ氏の就任直前の支持率は5割を切っている。民主党議員の就任式ボイコットや、会場周辺を取り巻いた反トランプデモが示したのは米社会の分断の深さである。

 選挙戦が残した相互不信を修復する言葉は最後まで語られず、約16分の演説は選挙キャンペーンの延長だった。

 社会の多様性と寛容の精神を失ってはならない。

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 トランプ氏は大統領就任初日に、環太平洋連携協定(TPP)からの離脱を表明し、不法移民を阻止するための壁の建設を確約、北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉を表明した。

 オバマ政権の国際協調路線から自国中心主義へと大転換を図るものだ。

 これでアベノミクスの成長戦略の柱であるTPPの発効は絶望的になった。

 米国抜きで進める代案はあるのか、それとも2国間の枠組みを模索するのか。TPPは中国をにらんだ安全保障体制という側面も有しているだけに、安倍政権は戦略の練り直しを迫られる。

 米国がメキシコ、カナダと結ぶNAFTAの再交渉は、現地に生産拠点を持つ日本企業にも影響を与える。

 世界経済全体が不透明感を高めてきた。

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 安倍晋三首相は20日の施政方針演説で、「日米同盟こそが外交・安全保障の基軸であり不変の原則だ」と述べた。

 同盟強化のために米国の要求を積極的に受け入れる政権の姿勢を考えれば、トランプ氏が求める在日米軍駐留経費の負担増にも応える用意があると読むことができる。沖縄の基地負担増や機能強化につながらないか懸念する。

 翁長雄志知事は新政権の発足に合わせ31日からワシントンを訪問し新基地建設計画の見直しをアピールする。誰と会い、何を訴えるか、周到に練り上げなければ要請行動が空回りに終わりかねない。