移民を受け入れ、多様性を自らの活力としてきた米国を排外主義へと大転換させる政権になるかもしれない。

 トランプ大統領はメキシコ国境に壁を建設することを表明し、国境管理強化を指示する大統領令に署名した。排外主義的政策を強く懸念する。

 大統領選での重要公約だが、発言を一時トーンダウンさせていたことから懐疑的にみる人もいた。実行に移す段取りに入ったことは、隣国の意向をまったく勘案せず「アメリカ・ファースト(米国第一)」を実際に適用することを意味する。

 トランプ氏が建設費をメキシコに負担させると強弁していたことに対しペニャニエト大統領が拒否。驚くのは、拒否されると今度は強制的に「メキシコからの輸入品に20%課税する」ことを検討していることだ。「従属国家」でもあるまい。ペニャニエト氏が反発し、首脳会談の中止を米側に伝えたのは当然である。

 不法移民対策について話し合いの余地をまったく与えないばかりか、一方的に20%課税するのは域内関税を撤廃した北米自由貿易協定(NAFTA)を無視するものだ。再交渉を目指しているとはいえ、大国の横暴であり、とても正当な手順ではない。仮に実現しても20%の輸入品課税は製品価格に転嫁させられて高価になり、困るのは、最終的には米国の消費者である。

 大統領選でトランプ氏は移民らに職を奪われたと不満を募らせる白人労働者らの支持を集めた。異例の低支持率でスタートしたトランプ氏が不法移民をターゲットに訴える手法である。移民を敵視し口汚い言葉でののしって憎悪をあおるポピュリズム(大衆迎合政治)の典型だ。

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 米調査機関によると、メキシコ系の不法移民は2007年の約700万人をピークに、14年には約585万人に減少。それでも約1110万人の不法移民のうち、メキシコ系が52%を占めている。

 米国は移民の国であり、その労働力が米国経済を支えてきた側面がある。不法移民に寛容な政策を取る「サンクチュアリ・シティー(聖域都市)」と呼ばれる都市がいくつも存在し、公共サービスが受けられることからも分かる。トランプ氏はこれら聖域都市に政府の補助金を停止する大統領令にも署名した。

 国境は3200キロにわたり、壁の建設には200億ドル(2兆2千億円)に上るとの試算がある。議会は大統領令を覆したり修正したりすることができる。議会の見識も問われているのである。

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 トランプ氏はテロリスト対策を名目に、シリアからの難民受け入れを無期限に禁止する大統領令の検討に入った。

 オバマ前政権はシリア難民受け入れを拡大する方針だっただけにこれも政策の大転換である。シリアやイラク、イランなど中東・アフリカの7カ国の入国ビザの発給を30日間停止することも検討している。イスラム教徒など「異質な者」の排除である。

 トランプ氏は就任早々、矢継ぎ早に大統領令に署名している。「米国第一」が憂慮すべき事態を招いている。