天皇陛下の退位問題をめぐって、政府・官邸と宮内庁の間にすきま風が吹いているのではないか。

 天皇の地位は「国民の総意に基づく」と憲法で定められているが、国民の意向が軽視され、「一代限りの特別法」という政府・官邸の方針に沿って物事が急ピッチで進んでいるのではないか。

 メディアで連日のように報じられる動きを追っていると、そんな印象がぬぐえない。

 全国紙は11日、政府・官邸サイドからの情報を基に、一斉に「政府は、2019年1月1日に皇太子さまが即位し、その日から新しい元号とする検討に入った」と報じた。正式に退位が決まったわけでもないのに、まるで決定したかのような大見出しであった。

 新天皇即位と同じ日の元日から新元号とする考えについて宮内庁の西村泰彦次長は、「なかなか難しい」と否定的な見方を明らかにした。

 政府・官邸と宮内庁の意思疎通が十分でないことをうかがわせる。

 政府の有識者会議がまとめた論点整理は、「一代限りの特別法」という方向性を強くにじませたものだった。

 雑誌「文藝春秋」2月号は、学習院時代の天皇の同級生だという明石元紹(もとつぐ)氏の手記を掲載している。

 「陛下のお気持ちを(電話で)直接お聞きする機会を得た」という明石氏はその中で、「陛下は特例法ではなく、皇室典範の改正を望んでいる」と改めて強調している。

 水面下の駆け引きを想像させるような内容だ。

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 憲法は「皇位は皇室典範の定めるところにより継承する」と定めるが、「生前退位」の規定は憲法にも皇室典範にもない。

 現在、検討されているのは(1)皇室典範の改正によって退位を恒久制度化する(2)特別立法を制定して陛下一代に限って認める(3)折衷案として特別立法での退位を認める根拠規定を皇室典範の付則に書き込む-という3案。

 有識者会議の論点整理を受け、国会では本格的な議論が始まった。最も重要なことは、議論が国民に開かれていることだ。

 「象徴天皇制」を盛り込んだ憲法が施行されてから今年でちょうど70年。「国民の総意」をどのような形で実現していくか。国権の最高機関である国会の責任は重い。

 政府と野党の隔たりが大きいだけに意見の集約は容易でないが、立法府が行政府の下請け機関のような役割を果たすことがあってはならない。

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 明仁天皇は1996年12月の誕生日を前にした記者会見で、普天間基地返還をめぐる日米交渉を念頭に、こう語った。

 「沖縄の問題は、日米両国政府の間で十分に話し合われ、沖縄県民の幸せに配慮した解決の道が開かれていくことを願っております」

 沖縄の歴史を深く認識することが「沖縄の人々に対する本土の人々の務め」だとも語っている。こうした発言に接するたびに、安倍政権による現実の政治との隔たりを思わざるを得ない。