社会の亀裂を拡大させる不寛容で差別的な大統領令は、速やかに撤回すべきだ。

 トランプ米大統領が決めたイスラム圏7カ国からの入国禁止や難民受け入れ凍結に、国内外で強い批判の声が上がっている。

 大統領令署名翌日の28日、米国に到着したものの入国を認められず拘束された人が100人を超え混乱が広がった。中東では米国行き航空機への搭乗を拒否される人が相次ぎ衝撃が走った。

 トランプ氏はテロ対策のためと正当性を主張するが、特定の国や宗教をターゲットに、そこに住むすべての人々を犯罪者扱いするような政策は、差別以外のなにものでもない。

 今、米国で問題になっているのは「ホームグロウン(自国育ち)」の新たなテロである。出身や信仰でひとくくりにして疑うことは、テロ対策にはむしろ逆効果である。 

 大統領令を巡っては、全米各地で市民らによる大規模デモが続いている。

 西部ワシントン州は、信教の自由を保障する憲法に違反するとして提訴に踏み切った。

 「身内」とみられていた企業トップも反対の姿勢を明確にし始めている。

 トランプ氏は排外主義の政策を矢継ぎ早に実行に移すことで力を誇示しようとしているように見えるが、自由や平等を理念に多様性を大切にしてきたのが米国の価値観ではなかったか。

 アメリカ第一主義の極端な政策で、「異質なもの」への憎悪をあおれば、分断はさらに深まる。

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 オバマ前大統領は退任後初の声明で「宗教を理由にした差別に反対」と非難した。ノーベル平和賞を受賞したマララさんは「胸が張り裂けそう」とコメントを発表している。

 ドイツのメルケル首相、フランスのオランド大統領、英国のメイ首相、オランダのルッテ首相らも反対の立場をとる。

 全日本空輸と日本航空が7カ国の旅客の搭乗を断る方針を決めるなど日本でも入国禁止が波紋を広げ始めているのに、安倍晋三首相が分断を生む政策にきちんと警告を発しないのは残念だ。

 参院予算委員会で対応を聞かれ「コメントする立場にない」と静観する姿勢を示したのだ。

 日米首脳会談を前に機嫌を損ねないようにと判断したのだろうが、首相の対応は他の同盟国の首脳に比べ卑屈な印象を受ける。

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 おととし4月、米連邦議会で演説した安倍首相が、当時、国会に提出すらしていない安全保障関連法案を、夏までに成立させると約束したことを思い出す。

 際立つのは「対米追随」の姿勢である。

 安倍首相は「日米両国は普遍的価値の絆で固く結ばれた、揺るぎない同盟国だ」と強調する。

 国際社会が直面する課題に取り組んでいく「希望の同盟」であればこそ、沈黙を選ぶ時ではない。

 大統領令を撤回させる世界の輪に日本も加わるべきだ。