もう何年も前のことになるが、私はかつて琉球・沖縄史を研究している友人との酒の座で、いずれ琉球と日本本土の歴史を比較した一書を書いてみたい、と漏らしたことがある。友人は「それはとても一人でできる仕事でないだろう」、と一笑に付した。確かにそうだと思って、具体的に仕事にかかるまでにはいたらなかったが、しかし私と同じ思いの人がいた。

「それからの琉球王国」(日本経済評論社・3888円(上)、3456円(下))/くりま・やすお 1941年那覇市生まれ。70~2010年沖縄国際大。現在、同大名誉教授。1998年「沖縄経済の幻想と現実」で伊波普猷賞受賞。ほか「沖縄の覚悟」など著書多数

 来間泰男氏である。氏は農業経済を専門とし、これまで主として近代以降の沖縄経済史の研究にたずさわり、多くの業績を残してきた方である。その氏が、従来の沖縄の前近代史研究に飽き足らず、古い時代にさかのぼって研究史の検討をはじめ、日本評論社より「シリーズ沖縄史を読み解く」と銘打って刊行を続けてきた(第1巻『稲作の起源・伝来と“海上の道”』は2010年刊)。表題の本はその第5巻に当たり、上・下2冊よりなる。時代的には15世紀から17世紀はじめの島津氏の琉球侵攻に至るまでを検討の対象とした巻である。

 既刊の書と同様、本書が日本はもちろん、いかに多くの中国・朝鮮・東南アジアの歴史関係書の消化のうえに成り立っているかは、巻末の「文献目録」をみれば明らかである。通史・講座などとして一般に提供されている文献を博捜し、それを「読み解く」という手法をとっているので、物足りなさを感じる読者もいるであろうが、著者が「琉球中世」と位置づける14~16世紀の王国の租税について論じた第8章は、著者自身が近年の研究テーマとしてきただけに読み応えがある。

 私は琉球・沖縄史研究については、自己完結的にではなく、東アジア研究の深みからとらえる視点が必要だと常々考えている。日本本土あるいは東アジア諸域の歴史社会の成り立ちと沖縄のそれとはどこがどう違い、どこが同じなのか、それはなぜか、歴史学上の腑分(ふわ)けをする必要があるのではないか。来間氏の仕事は琉球・沖縄史研究にたずさわる者への挑発と受け止めたい。(上原兼善・岡山大学名誉教授)