米国大統領選は最後の最後まで混迷している。沖縄の基地負担の削減を期待する方もおられようが、展開次第ではかえって地域の不安定さが増幅しかねない。何が出てくるのか分からないお化け屋敷に入ってしまったような感じがある。


 それにしても驚くのは、トランプ支持の根強さだ。詐欺まがいの多くの行為や、女性の人格を否定する一連の行動や発言が暴かれた後でも、米国の有権者の4割以上がトランプ支持だというが、低所得の白人層だけではそこまでの数にはならない。


 筆者が先月に米国で見聞してきたところでは、伝統的に共和党支持である自営業者や中小企業経営者にこそ、彼に期待する層が多いようだ。何を? 減税である。いくら身を粉にして働いてももうからないという現実にあえぐ彼らは、払った税金が無職の貧困層や退職高齢者の不労所得に回る今の福祉システムに、強い反感を抱いている。


 18年間も巨額の税逃れを続けてきたトランプは、そんな彼らにとってヒーローにもなりかねない存在なのだ。


 結いの伝統のあるウチナーンチュであれば、「自分だって貧困層に落ちるかもしれないし、いずれ歳も取るからお互いさまの面もある」と考えるのではないか。東京人なら「自分だけ税金を払わないのはずるい」と言いそうだ。


 だが米国民、特に共和党支持層の間では、自助努力が何よりリスペクトされる。彼らは「減税して政府機能を極限まで縮小し、各人が自助努力の範囲で生きるべきであり、力及ばない場合は運命を甘受すべきだ」と考えているのだ。その陰で起きていることに気付かないのだろうか。「自ら汗して得た所得を尊重し、不労所得を排する」という古き良き米国の理想は、もはや現実ではないということを。


 というのも、米国でやりとりされている不労所得の圧倒的大部分は、貧困層への給付ではなく、富裕層が身内から相続する財産なのだ。貧困層への福祉サービスが彼らの怠惰を助長すると批判する米国人は、他方で富裕層の子弟が巨額の財産を相続し、高額の学費を楽々払い、マネーゲームに走っていることをどう考えるのか。親に財産のない層はろくに大学にも行けず良い医療も受けられず、いくらマジメに働いても浮かび上がれないというのに。


 米国に限らない。今世紀資本主義の最大の問題は、表に表れた格差ではなく、親の地位や富裕度で子供のスタートラインに決定的な差がつくという事態のエスカレート、すなわち「格差の身分化」だ。これは封建原理の復活であり、放置すれば必ず社会不安が高まり、資本主義は自壊に向かう。


 働いた者自らが富を得るという資本主義原理を社会のカロリー、その上での必要範囲での所得再分配を社会のビタミンとすれば、相続税の適正運用で将来世代への格差の承継を防ぐことは、社会の骨格を形成するカルシウムのようなものだ。


 沖縄では、せっかく出生率が高いのに、子供の貧困が大きな問題となっている。親の自堕落や無計画は問題だが、生まれた子供に罪はない。格差が代を継いで続く状況を緩和できるか、県民の智恵(ちえ)が問われている。(日本総研主席研究員、地域エコノミスト)

(2016年11月6日付沖縄タイムス総合面から転載)

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