2017年(平成29年) 11月24日

タイムス×クロス 藻谷浩介の着眼大局

【藻谷浩介の着眼大局】(10)沖縄にIRは要らない 観光の要は自然と文化

藻谷 浩介
藻谷 浩介(もたに こうすけ)
日本総研主席研究員、地域エコノミスト。

1964年、山口県生まれ、東京大学法学部卒。主な著書に「デフレの正体」「里山資本主義」(共著)、「実測!ニッポンの地域力」。

 辺野古の目と鼻の先の安部海岸への、オスプレイ墜落。大浦湾沿岸の人たちも改めて、辺野古基地問題の深刻さを実感したのではないか。日常の安全と引き換えの「振興策」で振興する地域などない。


 にもかかわらず新年早々、空中給油訓練が再開されたと聞く。オスプレイが自分の頭の上を日常的に飛んでいる沖縄の皆さまの心中を代弁すれば、「東京の近くで同じことが起きたら大騒ぎだろうに、沖縄だから無視を決め込むつもりか」となろう。「土人」発言と、それに対する一部政治家の容認発言を思い出して、改めてご不快を覚えた方も多いのではないか。


 だが東京の一部マスコミやネット世論が無視を決め込んでいるのは、沖縄の基地問題だけではない。たとえば福島第1原発からの放射能は、事故直後には北関東から首都圏にかけて広がったのだが、そのこと自体が早々に語られなくなった。


 つまり関東地方4千万人の安全に関わる問題がうやむやにされたのだ。福島県内にいまだに残る居住禁止地帯に関しても、言及されることがあまりに少ない。


 それでも現政権とその支持層は、異論に耳を貸す気配がない。辺野古問題でも原発再稼働問題でも、気合を持って進めれば、反対者もいつかは腰を折ると信じているようだ。だが猪突(ちょとつ)猛進が通じないからこそ、北朝鮮拉致被害者も北方領土も返ってこないし、環太平洋連携協定(TPP)も頓挫した。


 筆者が年来指摘する辺野古沖の津波リスクも、気合で消えるものではないのに無視している。そのような政権が今度は、「成長戦略」の柱として、カジノ併設の統合型リゾート(IR)の開発を強引に進め始めたが、これまた力の入れどころがとんちんかんだ。


 カジノはお隣の韓国をはじめ、アジア各地、欧米各地に無数にあるが、その中でIRとしてうまくいっているのは、ラスベガスやマカオの一部と、シンガポールのマリーナベイサンズなど、数えるほどしかない。


 逆にフロリダのオーランド周辺や、ハワイや沖縄のように、カジノ以外の楽しみを詰め込んだ総合的なリゾート地帯として発展している場所の方が、カジノの成功例よりずっと多くある。


 カジノ推進論者は、ラスベガスとオーランドと、家族連れでゆっくり楽しむならどちらがいいか、自腹で現地を旅行して体験してから発言しているのだろうか。


 IRの候補地に、維新の本拠地・大阪や、与党有力者の地盤の和歌山が入って、沖縄が抜けていることに、危機感を抱く県内経済人もおられよう。だが危惧には及ばない。カジノは経営が難しい上に、成り立ったら成り立ったで県内貧困層の所持金を吸い上げるだけだ。


 アジアからの集客を増やし県の経済を底上げするには現在の、自然と文化を活かした高感度なリゾートという路線を維持強化した方が、つまりIRからカジノを除いた部分を構築した方が、よほど効果が高い。


 沖縄のライバルは、自然に恵まれないマカオやシンガポールではなく、ハワイやフロリダやタヒチだ。目先の揺さぶりにつられて、県内の議論を現実離れした方向に迷い込ませてはならない。(日本総研主席研究員、地域エコノミスト)

(2017年1月8日付沖縄タイムス総合面から転載)

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