沖縄県南城市玉城垣花の湧き水「垣花樋川(ひーじゃー)」。豊富な水量で人々の生活を支えるが、地元では「わったーやんかしぇー、ワナガーんでぃ、いいちょーたんどー(私たちは、昔からワナガーと呼んできたけど)」と違和感があった。謎を探ると、貴重な水源への感謝と、本来の名前も知ってほしいとの思いがみえてきた。(南部報道部・又吉健次)

垣花樋川の本来の名前は「ワナガー」「シチャンカー」と知ってほしいと話す末吉清・垣花区長(右)と平良礼次さん=南城市の同所(イキガンカー)

垣花樋川(ワナガー)の場所

垣花樋川の本来の名前は「ワナガー」「シチャンカー」と知ってほしいと話す末吉清・垣花区長(右)と平良礼次さん=南城市の同所(イキガンカー) 垣花樋川(ワナガー)の場所

■発端は1985年の「名水百選」

 垣花樋川は、集落南側の山の中腹にある。南城市内の新里坂(びら)を連想させる急勾配の石畳道「カービラ」(カー=湧泉=に続く坂道の意味)を100メートルほど下った場所にある。

 男性が水浴びしたイキガンカー、周囲を囲った女性用のイナグンカー、2カ所から水が流れ込む池は、馬を水浴びさせるといった意味のンマミシガーがある。

 注目を浴びたのは1985年、環境庁(現・環境省)が「名水百選」に選定してから。当時、区長だった末吉弘昇さん(80)は、決定を伝える新聞記事で垣花樋川の呼称を「初めて知った」と振り返る。

 垣花の一部となった和名集落の名前の付いたワナガーが、昔からの名前だ。集落より低い位置にあることを意味するシチャンカー(下にある湧き水)が後から加わり、二つの呼び方が使われた。

■なぜ、名前が変わったのか

 なぜ、名前が変わったのか。名水百選へ申請した旧玉城村職員の男性(76)は「名称は垣花区の役員に聞いた」、環境省は「自治体から推薦のあった名前を使っている」という。一方、申請当時の知念正区長(78)は「名前を聞かれた記憶はない」ときっぱり話す。

 実は、近隣にある仲村渠樋川も「ウフガー」と呼ばれていた。同区の歴史に詳しい喜名勲さん(65)は「形は樋川なのでヒージャーと呼んだかもしれないが、聞いた記憶はない」と話す。「地元の人は、カーにあえて集落名をつけないのでは」といい、集落外の人が命名したとみる。

 集落で使われる名前と違う名称で、有名になった垣花樋川。「名称に地名があるから垣花区にあると分かるし、訪ねてくれる。いまさら変えなくていい」「他集落の人が遊ぶようになり、水場を取られた感じ」。区民の思いはさまざまだ。

■せめて住民は知ってほしい

 垣花区長の末吉清さん(63)は、区の広報紙に「区民は知っておきましょう 垣花樋川の正式呼称を ワナガー(シチャンカー)」と記して119世帯に配る。「命の水という恩恵をいただく場所の名前が、忘れられてしまわないか。感謝の気持ちや地域文化を継承する意味でも、せめて区民は知ってほしい」と訴える。

 「わったーや、くーさいねー、みじくみやくやたんどー(子どものころは、水くみ役だったよ)」と、末吉区長は両親から聞いた。歩くだけで息の弾む坂道を、水を担いで上る重労働。それだけに水は貴重で、感謝の念は強かった。

 「カーんかい、あしびーがいか(水場へ、遊びに行こう)」。イキガンカーの排水口に石を詰め、土を盛って水をせき止めた“プール”に飛び込んで遊んだ子もいた。平良礼次さん(69)は「カーに行けば誰かがいる。林でクワガタを取り木の実を食べ、みんなの集まる場所だった」という。

 1日800トンほどの湧き水は、庭への散水や飲み水、農業用水として使われる。末吉区長は「せっかくある貴重な水源。給水施設の老朽化もあるが、使える間は使いたい」と話した。

 【ことば】カー 井戸や用水に使われる湧泉を指すしまくとぅば(島言葉)。共通語の川は、カーラやハイカー(走川)などと言う。ヒージャー、ヒージャーガーは、湧き水をかけ樋(ひ)で引き、川のように水が流れ落ちるカーを意味する。地域で言い方は異なるが、つるべを垂らして水をくむ井戸状のチィガー、水タンクにパイプを差して給水するドーガーもある。