本書は、50年近くにわたり、サンゴ礁の島じまに暮らす人びとの研究をおこなってきた生態人類学者の秋道智彌が、1970年代から継続してきた琉球列島でのフィールドワークの成果を種々の歴史史料と統合し、琉球列島社会を環太平洋の島嶼(とうしょ)世界に位置づけようとする労作である。

「サンゴ礁に生きる海人-琉球の海の生態民族学」(榕樹書林・6912円)/あきみち・ともや 1946年京都市生まれ。東京大大学院博士課程修了。総合地球環境学研究所・国立民族学博物館・総合研究大学院大学名誉教授。山梨県立富士山世界遺産センター所長。「越境するコモンズ」など著書多数

 沖縄で耳にする「離島」との表現には、どことなく孤立したイメージがつきまとう。しかし、人間の生存に不可欠な食物ひとつとっても、自給自足できる島など存在しない。島に暮らすということは、必然的に外部社会との「島嶼間交易」が前提となる。著者の関心は、そうした島嶼間交易がいかに外部世界とつながっており、現在、いかに変容しつつあるのか、を明らかにすることにある。

 たとえば、琉球列島には産しないコンブが琉球料理の必須食材であることは、蝦夷地と呼ばれた今日の北海道との関係なしには考えられない。長崎から輸出された俵物同様に琉球列島から清国へナマコやフカヒレが輸出されてもいた。他方、ジュゴンなどのように首里へ貢納されたものもあった。

 類似した環境下だとはいえ、島には、それぞれ固有の生態が存在する。そうした特徴を熟知した島人は、適応した漁法を開発し、その資源を利用するためのルールを築きあげてきた。本書には、先史時代から現代までの、そんな事実が、「これでもか!」といわんばかりに紹介されている。東南アジアの漁業社会を研究してきた私も、本書に登場する魚種のすべてをイメージできたわけではない。だが、ありがたいことに174点にもおよぶカラーの図版が、理解を助けてくれた。

 フィールドワーカーとして、自身のオリジナルなデータにこだわりたい気持ちもわかる。しかし、個人的には、20世紀初頭よりマニラやシンガポール、ジャカルタに出漁し、ムロアミ漁を展開した糸満系漁民が現地の鮮魚市場を独占し、魚といえば缶詰や干魚だった東南アジアの食生活を激変させたことについての著者の見解を読ませてもらいたかった気もしている。(赤嶺淳・一橋大学大学院教授)