2017年(平成29年) 8月18日

タイムス×クロス 木村草太の憲法の新手

木村草太の憲法の新手(50)南スーダンPKO問題 自衛隊員の安全を考えよ

木村 草太
木村 草太(きむら そうた)
憲法学者/首都大学東京教授  

 1980年横浜市生まれ。2003年東京大学法学部卒業し、同年から同大学法学政治学研究科助手。2006年首都大学東京准教授、16年から教授。法科大学院の講義をまとめた「憲法の急所」(羽鳥書店)は「東京大学生協で最も売れている本」「全法科大学院生必読書」と話題となった。主な著書に「憲法の創造力」(NHK出版新書)「テレビが伝えない憲法の話」(PHP新書)「未完の憲法」(奥平康弘氏と共著、潮出版社)など。
ブログは「木村草太の力戦憲法」http://blog.goo.ne.jp/kimkimlr
ツイッターは@SotaKimura

 稲田朋美防衛大臣の南スーダンPKOに関する答弁が話題になった。2月8日の衆院予算委員会で、小山展弘議員は、2016年7月のPKO部隊の日報に、南スーダンの首都ジュバで「戦闘」があったとの記述があるが、大臣は「戦闘」があったと認めるか、と問うた。大臣は「武力衝突」はあったが「戦闘行為」はなかったとの認識を示し、戦闘行為という言葉を避けたのは、「憲法9条上の問題が生じるからだ」と述べた。この答弁は憲法9条違反をごまかしたものと受け取られ、強く批判された。

 もっとも、法的に見たとき、稲田大臣のこの部分の答弁自体には、特に問題はない。

 日本の法体系では「戦闘行為」とは、国家(国家に準ずる組織を含む、以下同じ)と国家が武力を用いて戦うことを言う。戦闘行為が行われている現場に自衛隊を派遣すれば、自衛隊が国家相手に武力を行使することになり、憲法9条違反となる。そこで、PKO協力法など、自衛隊の海外派遣に関する法律は、戦闘行為が行われる現場への自衛隊派遣を禁じている。

 ジュバで南スーダン政府軍を攻撃した反政府組織は、確固たる支配地域などをもたないため、「国家」ではない。よって、ジュバで起こった事件は、法的な意味での戦闘行為ではない。稲田大臣は、それを戦闘と呼ぶのは、憲法9条違反の事態が生じているとの誤解が生じるで、避けるべきだと言ったのだろう。

 ただ、南スーダン問題に関連して、稲田大臣の答弁の他の部分や、日本政府の姿勢には、重大な問題がある。

 第一に、小山議員は、16年9月30日の衆議院予算委員会における、「7月のジュバで戦闘行為はなかった」との稲田大臣の答弁について、現地部隊の日報を確認した上でのものか、と問うた。大臣は、現地からもさまざまな報告は受けていたが、指摘された日報は見ていないと答えた。

 ジュバでの戦闘は、戦車や迫撃砲が用いられる激しさだったという。それだけの大事件について、担当大臣が日報を確認しなかったこと自体が、大問題ではないのか。

 第二に、武力主体が国家ではなく、「戦闘行為」には当たらないため、9条上の問題を生じなかったとしても、自衛隊の派遣場所が安全というわけではない。自衛隊の派遣基準である安全性を確保できているのか、慎重に判断すべきだろう。

 第三に、国連安全保障理事会は、南スーダンにおける大量虐殺の危険を避けるため、武器禁輸措置を検討していた。アメリカの主導にもかかわらず、16年12月23日、決議は否決された。非常任理事国の日本は決議を棄権し、アメリカの担当者からも批判された。自衛隊を受け入れる南スーダン政府に配慮したものとされる。

 PKO派遣は、南スーダンの人々の安全を守ることが目的のはずだ。PKO派遣のために、武器禁輸措置の実現を阻むのでは、同国の危険を増す原因となり、本末転倒となっていないだろうか。

 南スーダンについては、「憲法9条上の問題」発言より深刻な問題・論点が多数ある。メディアも国民も、自衛隊員の安全と南スーダンの人々のために何をすべきか、真剣に考えるべきだろう。(首都大学東京教授、憲法学者)

「木村草太の憲法の新手」が本になりました

本紙好評連載が待望の単行本化。2015年2月から始まった連載の46回目までを加筆修正して収録。辺野古、安保法制、表現の自由、夫婦別姓など、沖縄/日本の状況を憲法の理論から読み解きます。

■木村草太 著
■四六判/190ページ
■価格 1,200円+税

木村草太の憲法の新手
木村草太の憲法の新手
posted with amazlet at 17.08.08
木村草太
沖縄タイムス社
売り上げランキング: 63,390

沖縄タイムス「ギャラリーショップ」で購入

あわせて読みたい

関連リンク

タイムス×クロス 木村草太の憲法の新手のバックナンバー

連載

アクセスランキング

ニュース 解説・コラム
24時間 1週間
24時間 1週間