【連載「働く」を考える】

 「いくら給料がよくても、東京ではもう暮らせない。沖縄の安い賃金で、我慢するしかないのかな」。九州に本社を置く動画コンテンツ配信会社の沖縄支社に勤務する安谷屋尚吾さん(45)は膨大な量の業務を目の前に、ふとそんな徒労感にさいなまれる。

映像処理のトラブルがあったらすぐに対応できるように、いつもUSBを持ち歩いている安谷屋さん。1人で担当し「プレッシャーを感じている」

 東京の大学を卒業後、アクセサリーの企画販売会社の経営に関わった10年間を含め、20年以上東京で過ごした。3年前、70代の両親の要望で帰郷した。本土の友人は親のために退職したことに驚いたが「自分にとっては自然なこと。放っておけないから仕方ない」。求人広告から比較的賃金がよさそうなこの会社を選んだ。

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 全国約700軒のホテルに映像を配信する事業で、配給会社から買い付けた動画データを各ホテルの仕様に合わせて書き換え、処理する業務を担当している。沖縄の正社員は安谷屋さんとシステム管理者、ウェブデザイナーの3人。毎月新規に送られてくる映像は100本以上で、「頭が常にパンパンの状態。胃をやられてしばらく通院していたこともある」。前任者はうつを患って辞めた。

 勤務は午前9時~午後6時。日ごろ2~3時間ある残業は締め切りが迫るとそれ以上になり、休日出勤することも少なくない。残業代はなく、月給は手取りで約20万円。一度だけ、残業申請を提出して残業代が支払われたことがあったが、出張で沖縄に来た本社の上司から「だれも残業申請なんか出さないから」とくぎを刺された。

 「全国のホテルの映像配信をコントロールしているという自負がある。けれどこの給料じゃ割に合わない」。経営者の縁故者だった前任者の月給が30万円だったことを後で知った。「現地採用された自分は沖縄の相場に合わせて安く使えると思ったんじゃないかな」。何度も上司に賃上げを訴えたが、聞き入れられなかった。

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 以前いた東京の会社では東南アジアから天然石などの材料を仕入れてアクセサリーをデザインし、小売店や通販ショップ向けに販売していた。月給は20万~70万円。波はあったが、楽しくて苦にならなかった。一方で「自分の根っこは沖縄の人。もう東京のせわしい環境には戻れない」と感じている。暮らしていくと決めた沖縄で「会社の待遇にぜいたくは言えないのかな」とため息をつく。

 映像配信会社は昨年、大手企業に買収され、事業効率化のため、沖縄支社は今年末頃の閉鎖が決まった。「仕事を失うことになるけど、安く使われる作業から抜け出せる」。ほっとしたのが本音だ。安谷屋さんの給与の低さに驚いた買収先の幹部が賃金を引き上げる条件で東京転属を打診してきたが、受けるつもりはない。沖縄でも、ものづくりに関わった以前の経験を生かせる仕事がないか、アンテナを張る日々だ。(文中仮名)

(学芸部・座安あきの)=月-水曜日掲載

 

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