本書は、2005年から継続して開催されてきた「東アジア出版人会議」の発表から、「東アジア読書共同体と共同出版」「歴史と現在」「編集者の経験から」「出版のデジタル化と電子読書の可能性」「翻訳の問題」「編集者の発表から」「回顧と提言」という7章に39の報告をまとめたものである。

沖縄時事出版・3024円

 しかし、本書の内容は決して出版ビジネスにのみ焦点を当てたものではない。タイトルにある「読書共同体」という言葉が示すように、書物を媒介として、グローバル化の進む東アジアという地域の関係性や協力を問い直そうというものである。

 その前提は、かつて東アジア世界にあった豊かな書物交流である。漢文による交流だが、近代になると、単に「漢字文化圏」という枠を超えて、例えば中江兆民によるルソー「社会契約論」の漢訳「民約訳解」や梁啓超の政治思想の検討にみるように、アジアの土壌において「近代」をどのように捉え、激動する時代に根底から向き合うのかという共通の課題があった。

 しかし、帝国主義と植民地支配、戦争、そして冷戦の下、そうした交流は瓦解(がかい)した。東アジア出版人会議はそれを再び促進するという目標を掲げた。

 本書の最大の特徴は、韓国、中国、台湾、香港、日本、そして沖縄の出版人それぞれが単に各地の出版事情を語るのではなく、出版を通して各々(おのおの)の近現代史を再考しているという点である。例えば、台湾の聯経出版社の林載爵は、1930年代に日本で発表された、日本支配下の反抗と覚醒を描いた楊逵の小説「新聞配達夫」の出現、また、国民党統治から現代に至る歴史論争の整理を通して、「省籍矛盾」の克服を含めた、脱植民地化という台湾史再構築の課題について論じている。短い報告ながら、歴史の複雑な現実を切り詰めず、開かれた説明で印象深い。

 本書は2016年の沖縄大会を踏まえ、沖縄の出版社から刊行された。一方的に沖縄を伝えるのではなく、他のアジアの葛藤と知的蓄積のあり方を参照することで、沖縄の課題を説明する方法がより明確になるのかもしれない。(若林千代・沖縄大学教授)

 東アジア出版人会議 大塚信一元岩波書店社長、加藤敬事元みすず書房社長、龍澤武元平凡社取締役が東アジアの出版人・編集者に呼び掛け結成した民間非営利の会議体。日・中・韓、香港、台湾、沖縄の6地域のメンバーで構成