「今の貧しい生活はこの手相のせいなのだ」。劇作家の寺山修司は少年時代、生命線や運命線が短い自分の手を見るたびに嘆いたという

▼将来の不安にかられ、寺山少年は引き出しから釘を取り出し、生命線を伸ばそうと手のひらを彫った。血まみれの手を見て、さらに深い絶望感に襲われたことを随筆に綴(つづ)っている

▼時代は違えど、家庭の貧しさが子どもたちの将来に暗い影を落とす構図は変わらないようだ。県が高校2年生と保護者を対象にした調査で、約3割が「困窮世帯」という結果が出た

▼本紙連載の「高校生は今」(8日付)に登場した高3のハルカさん(仮名)の境遇からも現実の厳しさが伝わってくる。児童養護施設で育った彼女は、4月から県内の美容関係の専門学校に進学するという

▼経済的な理由でいったんは諦めた夢をつないだのは、返済義務のない奨学金だった。「誰でも希望する道に進める社会になってほしい」。ハルカさんの言葉は、泣く泣く夢を諦めた多くの若い人たちの心の声にも聞こえる

▼将来を憂いて自身の手を傷付けた寺山少年はその後、夢をかなえて、若者たちのカリスマになった。自身の半生を振り返ってだろう、失意の中にいるあなたにこんな言葉を残している。「不幸な物語のあとには、かならず幸福な人生が出番をまっています」。(稲嶺幸弘)