「うちが生き残ったんが不自然なんじゃ」。井上ひさし氏の「父と暮らせば」は原爆投下から3年後の広島が舞台の戯曲だ。1人生き残った負い目から、戦後を歩み出せない女性の元に被爆死した父が幽霊になって現れ応援する

▼沖縄、広島、長崎にもたらされた「生き残るのが不自然」との倒錯した心理は、東日本大震災の被災地にもあるのではないか。生き延びた人々に罪悪感を抱かせる、不条理そのものだ

▼震災や原発事故で、沖縄に避難した人々を追う本紙連載「思いつむぐ」を読んではっとした。久保田美奈穂さん(38)は「茨城の友人に『元気?』と電話をかけることができない。逃げたという申し訳ない気持ちで、自分を責めてしまう」(11日付)

▼思わず5、6年前に取材した人たちに電話してみる。「自分だけ避難した、との負い目はあるか」と聞くと「そりゃそうだよ」。全く考えが至らなかった

▼県内避難者は現在592人。せっかく助かった命、生きるための選択に心苦しさを抱きながら暮らしている。私たちのすぐそばで

▼戯曲の中で「生きとんのが申し訳のうて」と繰り返す娘に、父はこう励ます。「むごい別れが何万もあったちゅうことを覚えてもろうために生かされとるんじゃ」。復興も原発事故も何一つ解決していない。「3・11」を沖縄で伝え続けてほしい。(磯野直)