当院では昨年からの年末年始で4人の患者さんを在宅でみとりました。そのうちの1人、Hさんは生来の病院嫌いで、肺がん末期と診断されて酸素吸入が必要になっても大好きなたばこを止めようとはせず、火事になる危険があるため自宅に酸素を置くことができませんでした。何年も前から肺気腫による呼吸不全になっていて、息が苦しくなるたびに救急搬送されていました。もちろん、肺がんの治療なんて受けるはずもありません。呼吸が楽になると退院して自宅でたばこを吸う生活を繰り返していました。衰弱が進んで、いよいよ死期が近くなったのを悟ったHさんは自宅で最期を迎えることを強く希望しました。

 病室を訪ねると、点滴を受けながらうっすらと眼を開け、「家に帰りたい」とかすれた声を出して私の手を握りました。余分な点滴は、肺内の水分を増やして呼吸苦を増悪させることがあります。奥さまと病院の主治医、看護師さんの話を伺うと、調子が良くなると酸素を外してデイルームでたばこを吸いにいく、点滴は本人が希望する通りに行っているということでした。私は在宅医療について説明し、口から取れる分だけの食事にして点滴しないことを提案しました。

 しかし、Hさんは頑として点滴の継続について譲りませんでした。在宅医療をサポートしてくれる看護小規模多機能型の看護師と相談して、最低限の量の点滴を、本人の納得いく時間ですることにしました。酸素供給装置の近くではたばこが危険だということは納得してくれたので、一定時間で点滴を外すことはHさんにとっても好都合なようでした。

 2日後、ベッドや介護用品の準備も整ったので、Hさんは自宅に帰ってきました。リフト車で自宅の前に到着したHさんは、車いすに乗ったままうまそうにたばこを一服付け、煙を吐きました。その後は介護ベッドで静かに眠っていましたが、午前0時すぎに呼吸が弱くなり、深夜2時すぎ、静かに息を引き取りました。奥さまは、本人の望みがかなってよかった、と涙を流しました。

 2014年医療施設調査によると、沖縄県の在宅医療実施施設数は人口10万人あたり15・9施設と、全国の33・9施設の半分程度です。往診、訪問診療、在宅みとりの数も半分です。全国的なアンケートでは、最後の場所は自由に過ごせる自宅でという回答が多くなっています。

 これからの多死社会を控えて、沖縄でも自宅で人生の最期を安心して迎えられる環境を整備していく必要があるでしょう。(泰川恵吾 ドクターゴン診療所)