皆さんは亜鉛を知っていますか。「胃が痛むこと?」。それは胃炎です。亜鉛は鉄、アルミ、銅に次いで日常生活で多く使われている金属元素です。またわれわれの生命維持に欠かせない必須ミネラルです。

 鉄が不足すると貧血になると知っている方は多いと思います。しかし亜鉛の不足で起こることは意外と知られていません。

 亜鉛が不足すると免疫、神経、内分泌、消化器などに異常を来すことが報告されています。世界人口の約3分の1は亜鉛不足を来していると言われており、発展途上国では深刻な問題で亜鉛の不足は下痢や気道感染の主な原因となっています。

 アメリカにおいても亜鉛の不足は問題となっており、全人口の50%が亜鉛の摂取量不足に陥っていると報告されています。それはファストフード化した食生活が原因と考えられています。

 わが国では厚生労働省の食事摂取基準で亜鉛の1日の推奨摂取量は成人男性で10ミリグラム、成人女性8ミリグラムです。しかし2013(平成25)年の国民栄養調査では平均摂取量が男性で8・8ミリグラム、女性で7・2ミリグラムと亜鉛の摂取が不足している状況です。

 亜鉛不足の症状としては、味や匂いが感じなくなり食欲の低下や皮疹など皮膚症状、免疫機能の低下による感染症、うつや認知症などの精神症状、男性機能不全、小児においては発達障害、性腺発育障害など多彩な症状を来します。

 特に高齢者では亜鉛不足が顕著と言われていますが、その多くは検査されておらず隠れ亜鉛不足の状況です。亜鉛不足が高齢者のQOL(生活の質)を低下させている原因の一部ではないかと考えられており、今後高齢化社会において大きな問題となる可能性があります。

 予防および治療としては食生活の改善が最も有効です。食物の中には亜鉛を多く含むものがあり、牡蠣(カキ)や豚のレバー、牛肉、煮干しなどがあります。日頃から亜鉛を含む食品を摂取することを心がけましょう。

 また亜鉛を内服することにより補充することができます。食事の摂取が困難な高齢者においては、サプリメントや亜鉛を含有した内服薬も有効です。

 もし身近な方に味を感じない、味がおかしい、匂いを感じないなどの症状があれば、念のため耳鼻科や内科に受診することをお勧めします。亜鉛はあまり知られていない地味な存在ですが、健康な生活を送る上で役に立つミネラルです。(平良直也 たいら内科クリニック)