沖縄戦に関する県史としては43年ぶりとなる「沖縄県史 各論編6 沖縄戦」が県教育委員会から刊行された。

 新しい証言や資料の発見などで、沖縄戦に関する研究は進展した。若手の研究者たちも育った。今回の県史は、これまでの研究成果の積み重ねを踏まえ、新たな知見を盛り込んだものだ。

 沖縄戦とは何だったかを多面的に知ると同時に、基地問題など現在の沖縄につなげて考えることができる。沖縄戦の新たな基本文献として重要な一冊である。

 特徴は、これまで取り上げられることの少なかった「障がい者」や「ハンセン病」「戦争孤児」、近年研究が進む「戦争トラウマ(心的外傷)」についてもまとめていることだ。

 砲弾の飛び交う中、母親の着物の帯をつかみ走って逃げた目の不自由な少年。聴覚障がいのある若者は、歩いていたところを日本兵にスパイとして捕らわれた。戦場で傷を負った結果、体に障がいが残り、戦後の生活に困難を強いられた住民も少なくない。

 沖縄戦で親を失い、孤児院に入れられた子どもの生活も悲惨で、多くの子どもたちが栄養失調などで命を落とした。米軍の占領支配は児童福祉の観点に乏しく「一貫して支配者の視線」だったと言及している。

 ハンセン病の患者は日本軍によって療養所に強制収容された。劣悪な環境下で壕掘りに駆り出され、餓死や衰弱死が相次いだという。

 「集団自決(強制集団死)」や「慰安所」の実態についても詳述している。

■    ■

 沖縄戦と精神保健との関連は近年になって、注目されている分野だ。戦場での凄惨(せいさん)な体験で心に深い傷を負い、報道や慰霊の日、基地などをきっかけに当時を思い出し、トラウマの症状を訴える人たちがいる。

 「鉄の暴風」が残した不発弾も、県内各地で発見される。処理作業のたびに避難や交通規制を強いられ、県民に不安を与える。2009年には糸満市で水道管工事中に爆発事故が発生した。

 県民への過重負担が続く米軍基地問題も、沖縄戦当時の基地建設から始まった。

 こうした記述からは、沖縄戦が沖縄の現在、そして未来につながる問題だということが伝わってくる。

 県史には、教科書検定に伴う沖縄戦記述の後退、学校での平和教育の成果や課題などもまとめられている。今に生きる私たちが沖縄戦をどうとらえるべきか、考える一助となっている。

■    ■

 翁長雄志知事は発刊のことばで「沖縄戦を理解し、悲惨な体験をしっかり受け止め、次の世代に継承していくための指針となることを目的としています」と記す。

 戦争体験者の高齢化が進む中、沖縄戦の風化が懸念されている。体系的にまとめられた史料をどう生かし、平和の創造に結び付けられるかが今後の課題だ。

 例えば、より平易に書かれ手軽に入手できる普及版を制作してはどうか。沖縄戦の実相を正しく伝えるために、さらなる工夫が求められる。