民主化から30年を迎える韓国で、再び大統領経験者が逮捕された。栄華から一転、哀れな末路が示すのは、癒着や不正、腐敗といった韓国政治に根を下ろす悪弊である。

 韓国検察は朴槿恵(パククネ)前大統領を収賄などの疑いで逮捕し、ソウル郊外の拘置所に収監した。

 親友の崔順実(チェスンシル)被告と共謀し、韓国最大の財閥サムスングループから巨額の賄賂を受け取り、崔被告が支配する財団への出資を大企業トップに求めるなど、少なくとも13の容疑が持たれている。

 朴前大統領は、大統領だった父親だけでなく母親も凶弾で失うなど“悲劇のプリンセス”のイメージが強いが、強大な権限をバックに民主主義的価値を踏みにじった責任は免れない。

 大統領経験者が退任後に逮捕されるのは収賄が発覚した盧泰愚(ノテウ)氏、クーデターの責任を問われた全斗煥(チョンドゥファン)氏に続き3人目となる。盧武鉉(ノムヒョン)氏は不正資金疑惑で検察の取り調べを受けた後、自殺した。

 任期中に親族らが収賄容疑で逮捕されるなど政権が求心力を失うケースも相次ぎ、ほとんどの大統領が不幸な形で職を退いている。

 朴前大統領は、不祥事を憂慮し家族との交流も断って孤独に過ごしてきたとされる。それなのになぜ、過ちを繰り返したのか。

 指摘されるのは、強大な大統領権限の恩恵を受けようとする財閥や、利権を求めて大統領周辺に群がる人々の根深い問題だ。

 そこに韓国特有の政治風土が横たわっている。

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 韓国大統領は大統領府高官や閣僚の人事権、国会への予算案提出権など国政運営全般にわたる権限を握っている。

 一民間人にすぎない崔被告の財団への企業からの資金拠出は、この大統領権限に期待したのだろう。崔被告に国の政治に関する機密資料が渡っていたことも権限が集中しすぎる制度に潜む構造的問題である。

 次期大統領を巡る世論調査でトップを走る、最大野党「共に民主党」の文在寅(ムンジェイン)前代表が、サムスンを名指しし財閥規制の強化を訴えているのは、政経癒着を意識してのことだ。

 朴前大統領の出身母体、旧与党「自由韓国党」のトップも、大統領権限の一部を首相などに移す改憲に触れている。

 大統領権限の見直しや分散化が、5月に実施される大統領選の争点になることは間違いない。 

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 国政の停滞や混乱は経済や外交にも影響を及ぼし、韓国政治はこれまでにない危機に直面している。

 日韓関係も慰安婦問題を象徴する少女像の設置でぎくしゃくしたままだ。

 混乱の収拾は北朝鮮の核・ミサイル開発への対応など東アジアの安定という側面からも急がなければならない。

 この間の大統領の弾劾、罷免を巡って、国論分裂ともいえる大きな傷も残った。

 政治を安定させ、分断された社会を一つにまとめることが、次の大統領に課せられた重い課題である。