本書はこれまで積み上げられてきた近世琉球をめぐる琉日、琉中関係研究の成果や新出史料(中国清代の档案(とうあん)・尚家文書)を活用し、中琉日関係の中で展開した琉球貿易の全体像に迫った労作である。(序章・終章を除き)全13章からなるが、その内の10章は新たに書き下ろされたもので、既発表の3章も大幅に修筆されており、ほぼ新稿と言ってよい。昨年11月に第59回日経・経済図書文化賞を受賞している。

近世琉球貿易史の研究(岩田書院・1万3824円)/うえはら・けんぜん 1944年那覇市生まれ。74年九州大学大学院博士課程中退、同大助手。96年~2009年岡山大教授。現在、同大名誉教授。02年「幕藩制形成期の琉球支配」が第30回伊波普猷賞受賞。「鎖国と藩貿易」など著書多数

 本書の論点は多岐にわたるが、特に旧著(『鎖国と藩貿易』八重岳書房、1981年)で迫った琉球貿易と薩摩藩の関係を再考し、19世紀以降に薩摩藩が行った琉球産のウコン・砂糖、輸入唐物(薬種など多岐)への売買統制、幕府と交渉し長崎での販売拡大や権益追求がなされた点を論じている。

 詳細は省くが、薩摩藩が琉球を管轄、または日本市場への商品を専売する立場を利用し、自藩に有利な条件を幕府から引き出し、藩利追求に突き進んだ姿が描かれている。対する琉球も対中交易・外交の最前線を担う立場を逆手にとって、薩摩藩へのさまざまな抵抗や主張を試みていたことが取り上げられ、琉薩間の重厚な交渉過程を浮かび上がらせることに成功している。

 評者が本書で得た最大の収穫は、琉薩関係の研究者として名高い著者が琉中関係研究の成果と史料を組み込み、まさしく近世琉球貿易の全体像とそこに横たわる構造的な問題を明らかにした点にあると考える。あえて言えば近年の研究の深化は琉中、琉日の各関係内に収斂(しゅうれん)する研究のタコツボ化を招き、中琉日間の往還の中で生起した琉球貿易・経済の全体像に迫る作業や視点は低調であった。その意味で著者の意欲的な挑戦と本書が切り拓(ひら)いた地平の広さに心の底から敬意を表したい。

 その上で本書が示す薩摩側の強圧的な琉球貿易への介入と統制の展開が薩摩に従属せざるを得ない琉球を招来していたとする議論と評価(「内国植民地」の感があるとも記す)を重く受け止めたい。本書は近世琉球の世界を捉える多くの示唆に富む議論と地平を我々に提供してくれている。(山田浩世・沖縄国際大学非常勤講師)