サイレンを鳴らし走る救急車を見ると、臨月の妻を送り出した夜を思い出す。未明に出血し、出産前に胎盤が剥がれる「胎盤早期剥離」で急きょ基幹病院へ向かった。まさかの事態。事故なく1秒でも早く着いてほしい。祈るような、少しおののくような心境だった

▼すぐに緊急の帝王切開手術を受けた。栄養や酸素をもらう胎盤を失えば、母子共に危険だ。生まれた直後の長女は泣き声はおろか身動き一つしない。「仮死状態」だった

▼より設備の整った新生児集中治療室(NICU)に入るためすぐさま転院。低酸素状態での脳への影響が心配されたが、幸い、医師の素早い処置で回復し、5カ月たった今、自宅で元気に過ごしている

▼医療は日々の暮らしを支える基盤-。生死が自らに降りかかって初めて、実感が伴う

▼本島北部でドクターヘリを運航しているNPO法人メッシュサポートは、搬送時間を短くしようと手作りで救急車を完備した。「当たり前の医療を平等に受けられるようサポートしているだけ。行政がしなければわれわれがやる」。救急救命士の宮城元樹さん(29)の言葉だ

▼折しも、北部地域では基幹病院の在り方が議論されている。乗り越えるべき課題は多いが、政治や行政の都合ではなく、離島・へき地の住民目線に立った「当たり前」の医療を目指してほしい。(西江昭吾)