〈海の声が知りたくて 君の声を探してる…〉。携帯電話のCMソングにもなってヒットした県出身グループ・ビギンの「海の声」の印象的なフレーズである。海に足を運べば自然に口ずさんでしまうだろう

▼通信手段がなかった遠い昔、人は好きな人に会いたい時、風や波の音に耳を澄ませて相手の声を探し、自分の声を届けようとしたのかもしれない。恵みの海は、たくさんの記憶が残る場でもあった

▼そんな「海」が、目の前で殺されていく。名護市辺野古での新基地建設に向け、袋に詰められた石材がクレーンにつるされ、大浦湾に次々と沈められていく光景をテレビで見ながら息を飲んだ

▼目を疑ったのは、日米の関係者が石材を投入する前のセレモニーで、工事開始を告げるスイッチを笑顔で押していたことだ。「海を殺す」ことに心が痛まないのだろうか。いや痛むまい。所詮(しょせん)彼らにとって目の前の海は、工事現場でしかないのだから

▼今後工事が進めば、護岸で埋め立て予定地の周りを囲み、年度内にも大量の土砂が投入される。貴重なサンゴの生態系は脅かされ、絶滅危惧種のジュゴンにも致命的な影響を与えるだろう

▼壊されるのは自然だけではない。人々の記憶もそうだろう。「さようなら」「助けて」。静かな海に耳を澄ませば、そんな悲痛な声が聞こえてくる。(稲嶺幸弘)