【小橋川慧通信員】毎年4月20日を過ぎると、厳しい冬を味わってきたトロント市民の多くは「ハイ・パークの桜はまだだろうか」と尋ね合う。ハイ・パークはダウンタウンの西の果てにある市民公園。公園の奥に日本から贈られたソメイヨシノの桜並木がある。

多くの人が訪れるハイ・パークの桜並木=カナダ・トロント

 桜の由来を語るには、カナダに住む日系人の不幸な歴史に触れなくてはならない。1941年、日本軍のハワイ真珠湾攻撃で太平洋戦争が勃発すると、日系人は敵国人と見なされて財産は没収され、ブリティッシュ・コロンビア(BC)州の沿岸部から強制移動を命じられた。戦争が終結して1年以上が過ぎてもBC州へ戻ることが許されず、多くの日系人はいわば「難民」の状態で住居と職を求めて東部へと移動する。その折、トロント市が多くの日系人を受け入れた。

 トロント沖縄県人会球陽会の会計を長年務めたバンクーバー生まれのトキ当山さんは、こうして47年の初めにトロントに居を構えた一人である。ユダヤ系カナダ人の世話でれんが製造会社に職を得た。5年後、アルバータ州で不慣れな砂糖大根栽培をしていた両親の当山正松さんとマカさん(ともに金武町出身)や球陽会で役員として働いていた弟ジョージさん、会長を務めたボブさんらをトロントに呼び寄せている。

 こうした日系人受け入れや支援への感謝のシンボルとして、東京都民は2千本の桜の苗木をトロント市民に寄贈、その多くがハイ・パークの歩道沿いに植樹された。桜並木の中ほどに、59年4月1日、萩原徹日本大使とネイサン・フィリップストロント市長が桜を植樹したことを伝える記念碑がある。

 ハイ・パークには駐車場が多く、普段は駐車に困ることはまずない。桜の季節になると週末はもちろん週日も、公園の入り口までの約1キロ渋滞して、車が1メートル進むのに10分はかかる。公園に入ってから桜並木までの約1・5キロも同様の渋滞。それほどハイ・パークの桜の観賞はトロント市民にとって春の一大行事になっている。