犯罪を計画段階で処罰する「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ組織的犯罪処罰法案がヤマ場を迎えようとしている。委員長職権で19日の衆院法務委員会開会を決定、自民・公明両党は強行採決に踏み切る構えだ。

 政権内では審議時間目安として30時間という枠を設定したほか、今月下旬に控える安倍晋三首相外遊前の決着を目標とする声が聞こえるなど、「安倍1強体制」の下、審議は当初からスケジュールありきが否めない。

 しかし、同法案は「疑わしきは罰せず」というこれまでの刑事訴訟や刑法の原則を根本的に覆すものだ。国民に開かれた、より慎重な議論が尽くされるべきで、数の力を乱用した採決は許されない。

 法案を巡る疑念は、何一つ解消されていない。

 例えば「法案が適用される組織的犯罪集団の定義」。一般市民が対象となるか否かについて、安倍首相は再三「対象にならない」と強調した。しかし、法案には集団が一般市民か否かを区別する明確な基準は示されておらず、時の政権や捜査当局による恣意(しい)的な解釈が十分可能だ。

 「警察や権力による法の乱用を防ぐ手立て」は不十分極まりない。参考人質疑で高山佳奈子京大教授(刑事法)は、一般市民を対象とした多くの犯罪が適用となるのに比べ、公職選挙法や政治資金規正法の違反、特別公務員職権乱用罪など、政治家や警察など権力側を対象とした犯罪が法案の適用外となることに疑問を呈した。

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 そもそもなぜ「共謀罪」法案が必要なのか、理由はいまだに定かでない。

 政府は当初、国際組織犯罪防止条約批准との関係で法案の必要性を訴えたが、批准の条件に法案は必要ないことが分かっている。

 すると政府はその後、2020年東京五輪・パラリンピックを控えたテロ対策の必要性から法案の必要性を挙げた。

 だが、国松孝次元警察庁長官はたとえ法案があっても、自身が犠牲になった長官銃撃事件やオウム真理教事件は「防げるかは分からない」と語る(14日付本紙)。

 ジャーナリストの江川紹子さんは12日付「朝日新聞」で、自身も脅迫を受けたオウム事件について、その一つである坂本堤弁護士一家殺害事件は現行法下でも防げたと指摘。事件が起きてしまったのは、ひとえに警察の捜査のあり方の課題だと指摘した。

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 政府は同法案を「テロ等準備罪」と名付け、国民に理解を呼び掛ける。

 だが、テレビ朝日の番組で自民党法務部会長の古川俊治議員は、法案が指定する277の犯罪について「テロに限らない」と認める。沖縄の基地問題に絡み、名護市辺野古の新基地建設現場でトラックを人間の盾で遮る行為について「具体的な計画を持って行えば適用対象となる可能性がある」と明言した。

 理由不明瞭、解釈次第の同法案の問題点が垣間見える発言だ。政府に批判的な意見を弾圧する道具としての「共謀罪」の本質を表している。