糸満市与座に、壺屋焼の看板を背負う最年少の職人がいる。「やちむん工房 結」の賀数郁美さん(33)。伝統を継ぐ技や姿勢など多岐にわたる審査を経て1月、壺屋陶器事業協同組合=那覇市=の最年少組合員になった。神木や扇として沖縄に息づくクバ(ビロウ)をモチーフにした線彫りを施した作品が代表作だ。沖縄で生まれ育ったからこそできる作陶に励む。(南部報道部・堀川幸太郎)

沖縄そば用の椀にクバ紋を彫り込む壺屋焼職人、賀数郁美さん=糸満市与座の「やちむん工房 結」

賀数さんの代表作、クバオージの線彫りを施した椀

沖縄そば用の椀にクバ紋を彫り込む壺屋焼職人、賀数郁美さん=糸満市与座の「やちむん工房 結」 賀数さんの代表作、クバオージの線彫りを施した椀

 ジーッ、チッ。静かな工房に、彫刻刀のような道具でクバオージ(扇)を椀(わん)に彫る音が響く。葉先は丸く太く、根元はスッと細く。力感と繊細さが同居するオリジナルの紋様だ。「祈りの場面から暮らしの中まで根付き、誰でも親しめる」と選んだ。

 同組合の理事長・島袋常秀さん(68)は椀を手に取り「まさに壺屋焼。彼ならではの紋様には、伝統的な技を伝えつつ自分の世界を開こうという意欲が表れている」と評する。かつて「壺屋焼職人」を名乗る組合員として認められるには、壺屋焼の窯元で10年以上の修業が必要だった。5年半しかない賀数さんだが、技量と姿勢が認められた。

 出来栄えは評判を呼び、県内外に取引が広がる。回り道もした。持ち前の行動力と自立心で高校卒業後の2003年、家族にも相談せず関東に出て約2年働いた。無自覚だった故郷の良さを顧みた時間となった。

 行事ごとに親戚が集う、人と人との結びつきの深さや海の美しさ…。テレビ番組や本土の同僚との会話を通して「沖縄のために仕事をしたい」と帰郷。07年、那覇で「陶工募集」の張り紙を見つけ弟子入りを決めた。

 最初は人間国宝・金城次郎を同姓同名の農家の曽祖父と勘違いしたほどの素人。1日20時間、ろくろを回す時期もあった見習いを経て13年に独立した。一緒に働いた弟子7人中、沖縄出身は2人。伝統を地元の人間が守りたい、という気概が支えた。

 窯は、祖父のキビ刈りを欠かさず手伝いたいと母の実家近くに開いた。工房「結」の名は「ゆいまーる」に加え、先人と未来を結ぶ職人になるという誓いを込めた。賀数さんは「沖縄のおばあさんの家に普通にあるような民具や風景を取り入れ、親しみやすい器を作りたい」と話す。

 工房は市与座90。展示品の購入や、ろくろ、手びねり制作を体験できる。事前の相談が必要。電話090(7464)9840。