役人の世界で出世するにはどうすればいいのか。その心得を紹介した本に、法学者・末弘厳太郎の「役人学三則」(岩波現代文庫)がある。約80年前の著作だが、今でも官僚主義の本質を突いていて面白い

▼三則の一つに「役人たるもの、平素より縄張り根性の涵養(かんよう)に努めよ」とある。意訳すれば、国益や世間のニーズよりも省益を優先すべし、だろう。省益より局益という言葉があるぐらいだから、役人の縄張り意識は健在である

▼先の改訂版を出すなら、「発覚したらまずい案件は文書に残すな」「責任を追及されても知らぬ存ぜぬを貫け」を追加してはどうか。安倍晋三首相の友人が理事長を務める学校法人の獣医学部新設計画をめぐる一連の動きを見ながら思う

▼問題の核心は、報道で表に出ている文書に記載された「(学部新設は)総理の意向」が事実であったかどうかである。所管の松野博一文部科学相は「(文書の)存在を確認できなかった」と調査結果を発表し、役人は一様に口をつぐんだままである

▼実は、末弘の「出世の心得」は皮肉を込めた逆説的な忠告であり、別の書籍では「役人に必要なものは法律ではなく良心と常識である」と説いている

▼マニュアルをうのみにし、縄張り意識の涵養に熱心な役人たちの姿に、泉下から法学の泰斗のため息が聞こえてくる。(稲嶺幸弘)