安倍晋三首相の「腹心の友」が理事長を務める学校法人「加計(かけ)学園」の獣医学部新設計画を巡って、「総理の意向」があったのではないかという疑念が一層、深まった。

 同計画に携わった文部科学省の前川喜平前事務次官が25日に会見し、「総理の意向」を伝えたとされる文科省の記録文書の存在について、「専門教育課で作成され、担当課から(自分が)受け取った文書だ」と明言。幹部の間で共有されていたという。

 その文書を「怪文書」と決めつけて、存在や内容を否定し、問題の幕引きに躍起になる政府の対応へ、疑問をかき立てる会見内容だった。

 大学設置認可の権限を持つ組織の元事務方トップの証言は重い。学部新設が認められるようになった経緯に不自然な点があることは再三指摘されてきた。政府は説明責任を果たすのは当然、国会も積極的に事実を究明し、国民の疑念を晴らすべきである。

 同学園は、政府の国家戦略特区を活用し、来年4月にも愛媛県今治市に獣医学部を開設することを目指している。実現すれば実に52年ぶりの新設である。

 文科省が長年新設を認めてこなかった理由は、獣医師の数が不足する見通しがないことがある。その中で、新設を認めないのは説得力のある判断である。

 不足どころか、供給過剰も予測される中で、養成機関や獣医師を増やした結果、専門職として働く場が少ないとなれば、高等教育にかけた時間とコストが無意味となり得るからだ。

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 さらに、第2次安倍政権発足後の2015年の閣議決定で、新たな獣医師ニーズに対応する場合にのみ、新学部設置を認めると限定した。

 会見で前川氏は、今回の計画で、どんな役割を果たす獣医師が、どれだけ必要なのか責任ある見通しがつかないため、文科省として新設を認められなかった、と説明したことも十分納得できる。

 しかし、国家戦略特区の事業として認められ、同学園が事業者に認定された。その過程で文科省は、特区を所管する内閣府から「総理の意向」「官邸の最高レベルが言っていること」などと伝えられていたとされる。仮に、首相の直接的な指示はなかったにしろ、「1強」といわれる首相の意向を官僚が忖度(そんたく)し、圧力をかけた可能性がある。

 「あったものをなかったことにはできない」と、内容や経緯を記した文書の存在を、当事者が明らかにした意味は大きい。

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 意に反して事が進められた前川氏は、「公正、公平であるべき行政の在り方がゆがめられた」と述べ、押し切られた自らの責任についても認めた。 

 「赤を青と言え」「黒を白にしろ」という官邸と、責任ある判断が難しくなっている省庁との極めて不健全な関係があることも示唆した。

 文科省は、文書の存在を「確認できなかった」とするが、再調査をすべきだ。政権与党は前川氏らの国会招致に同意して真相を解明し、国民に明らかにする責任がある。