「核なき世界」を目指す国際社会は岐路に立たされている。

 各国が核軍縮と不拡散の取り組みを協議する核拡散防止条約(NPT)の再検討会議がニューヨークの国連本部で始まった。

 1970年に発効したNPTは、米国、ソ連(現ロシア)と英仏中の5カ国にのみ核兵器保有を認め、それ以外には保有を禁じる「不平等条約」だ。一方で、核兵器保有国には核軍縮を「誠実に交渉する」義務を課すことで、核を巡る国際秩序の中心的な役割を果たしてきた。

 ただ、その意義を揺るがす事態が最近相次いでいる。

 ウクライナに侵攻したロシアは開戦直後、核戦略部隊の警戒度を引き上げ核兵器の使用をほのめかし、世界が核戦争の脅威を改めて実感した。

 2019年には世界の核弾頭の大半を持つ米ロが中距離核戦力(INF)廃棄条約を破棄し、技術競争を激化させている。北朝鮮の核開発は現在も続き、中国も核戦力を増強している。

 ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)は、核軍縮への行動がなければ「世界の核弾頭の在庫が冷戦後初めて増加に転じる可能性」もあると指摘する。

 何ら合意できないまま決裂した前回15年の会議と同じ失敗を繰り返すことは許されない。

 特に核兵器保有国には、核廃絶を望む世界の声に誠実に向き合う義務がある。核兵器による脅しをやめ、核軍縮への取り組みの再構築を始めるべきだ。

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 岸田文雄首相は、日本の首相として初めて再検討会議に出席し演説した。

 首相は「長崎を最後の被爆地に」と呼びかけた。ウクライナに侵攻したロシアの核による威嚇を批判した上で、核兵器不使用の継続などを提言した。一方で、史上初めて核兵器を全面的に禁止する核兵器禁止条約には言及せず、被爆者の失望を招いた。

 核禁条約は、進まない核軍縮に不満を募らせた非核保有国が中心となり発効させた。保有のほか開発や威嚇など核兵器を用いたあらゆる行為を禁じており「核なき世界」の実現という首相の目指すものとも一致しているはずだ。だが首相は、条約の初の締約国会議にはオブザーバー参加すら見送り、演説でも全く触れなかった。理解に苦しむ。

 首相が、核兵器保有国と非保有国との橋渡し役に意欲を示すなら、核禁条約を生んだ非保有国の不満にも目を向ける必要がある。

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 核保有国と非保有国の間だけでなく、核保有国の間でも亀裂が深まっている。

 核保有5カ国は1月、核戦争回避が「最大の責務」とする首脳共同声明を発表した。5カ国によるこうした共同声明は初めてだったが、翌2月のロシアによるウクライナ侵攻で結束はもろくも崩れた。

 4週間の会期中、どのように溝を埋めていくか。核不使用継続のほか核戦力の透明性向上、核兵器数の減少傾向の継続など5項目の行動計画を打ち出した日本の役割も問われる。