「2020年に向け、日本を考えよう」というコピーを見るたびにもやもやする。ACジャパンによるメッセージ広告。新聞やテレビで見た方も多いかもしれない
▼「ライバルは、1964年」。前回東京五輪が開かれた年を引き合いに「あの頃の日本人に、笑顔で負けるな」と呼び掛ける。コメディアンの故植木等さんが会心の笑顔である。私たちだって笑っていたい。ですが
▼21世紀の五輪に向けて政府が用意しているのは「共謀罪」。安倍晋三首相は言った。「法整備できなければ五輪を開けないと言っても過言ではない」
▼犯罪が起きる前の計画と準備を罰する。捜査のため、盗聴拡大が欠かせない。広告が「見る夢の大きさ」でも「こころの豊かさ」でも昔に負けるなと訴える、その内心が監視される時代が来る
▼「人を思いやる気持ち」はどうだろう。渋谷では五輪に向けた公園の再開発計画が動きだし、野宿の人たちが追い出された。街の「浄化作戦」で弱者が排除されている
▼安倍首相は改憲の期限まで2020年に設定するようになった。1964年と言えば、沖縄はまだ米軍占領下だった。本当に笑顔があふれる良き時代だったのかは両論あるだろう。今はとにかく、張り詰めた気持ちで見つめていく。五輪のどさくさに紛れて社会の形がすっかり変えられないように。(阿部岳)