1935沖縄 よみがえる古里

1935年の沖縄はこうだった 戦火に消えた「古里」 秘蔵写真でよみがえる

2017年6月6日 05:00

 セピア色をした1935(昭和10)年の写真群は、そのわずか10年後に沖縄戦で破壊し尽くされ、消えてしまった「ふるさとの面影」をたたえている。豊かな漁村、近代的な製糖集落、華やぎと活気に満ちた市場や商店街のにぎわい、琉球国造り神話の島…。82年前の写真群が、かつての沖縄の姿をよみがえらせる。写真はすべて朝日新聞社提供。写真説明は沖縄タイムスの取材による。

那覇-糸満の約9キロを走った「軌道馬車」。レールは那覇から見て左側に敷かれていたことから、この馬車は那覇に向かっている。右奥には記者が取材に使ったフォード車が写っており、糸満に向かう道中で馬車とすれ違った際、撮影したとみられる(写真:朝日新聞社)

糸満中心部、山巓毛(さんてぃんもう)から北西の眺望。赤瓦の家並から、町の発展ぶりが伝わる。豊かさの源は漁業による収入だった。写真奥、左側の濃い島影は糸満で「アナギ」と呼ぶ島だが、1960年代の埋め立てで陸続きになった。アナギの一部だった岩は今も残り、拝所になっている(写真:朝日新聞社)

海に素潜りで入り、地元でウーギンと呼ぶ、先端にかえしのない銛(もり)で仕留めた魚をサバニに上げる漁師たち。魚は鋭い口先を持つダツ。光に反応して突進する性質がある。今も漁船に乗る玉城亀助さん(85)ら複数の人によると、「豊漁とともに、ダツよけをお願いする祭祀(さいし)、ヒーダチの御願があった」と話す。糸満市史によると旧暦4月10日以前の吉日を選んで執り行われた。(写真:朝日新聞社)

久高島で12年に1度行われる祭事「イザイホー」の場、久高殿の「神アシャギ」。今も同じ場所にある。島に詳しい赤嶺政信・琉球大学教授は「祭事の前には神アシャギ周りの草を刈るため、写真ほど伸びることはない」と語る。朝日新聞「海洋ニッポン」連載よりも前で、祭事の間が空いて草が茂る時期であることから、「35年5月ごろの取材だったのでは」とみている(写真:朝日新聞社)

久高島では西海岸の崖の陰で、遺体を納めた木棺を置き、12年に1度、とら年の旧暦10月20日に一斉に棺(ひつぎ)を開け、遺族が洗骨した。棺の上のわらじや杖は、死者が無事に彼岸にたどり着けるようにという意味がある。骨は、写真中央に見える陶器や石でできた家型の「厨子甕(ずしがめ)」などに納め、正式な墓所に葬った(写真:朝日新聞社)

戦前に現在の那覇市東町にあった「那覇ウフマチ(大市)」と呼ばれた市場の様子。路上で商品を並べて露店販売をする人々もおり、にぎわった。背後の建物には「大迫商店」の店名が確認できる。当時の地図と照合すると、野菜や雑貨を販売していた通り沿いの、海産物などを販売する「大迫海産」の店先と思われる。(写真:朝日新聞社)

那覇市内にあった雑貨店の様子。庶民が日常的に生活物資を買い求めていた市場とは雰囲気が異なる。市内にいくつかあった百貨店内だろうか。店内にはキューピー人形がディスプレーされているほか、ボンタンアメの広告が確認できるなど、店の品ぞろえの豊富さが分かる。1935年当時から、沖縄にも商品経済の波が訪れていたことが見て取れる(写真:朝日新聞社)

圧搾機を使い、黒糖の原料となるサトウキビの汁を搾り出す美里村古謝の農民たち。古謝は1933年、沖縄県から「糖業経営改善指導部落」と指定を受け、サトウキビの品質向上や収穫量増加を目指した。圧搾機は村の農家で構成する「共同製糖組合」が30年代に購入。利用は1日1世帯に限られており、予約表に基づいて農民たちはサトウキビの収穫日程を調整していたという(写真:朝日新聞社)

写真:朝日新聞社

写真:朝日新聞社

写真:朝日新聞社

写真:朝日新聞社

写真:朝日新聞社

写真:朝日新聞社

写真:朝日新聞社

写真:朝日新聞社

写真:朝日新聞社

大阪朝日新聞連載「海洋ニッポン」

那覇-糸満の約9キロを走った「軌道馬車」。レールは那覇から見て左側に敷かれていたことから、この馬車は那覇に向かっている。右奥には記者が取材に使ったフォード車が写っており、糸満に向かう道中で馬車とすれ違った際、撮影したとみられる(写真:朝日新聞社) 糸満中心部、山巓毛(さんてぃんもう)から北西の眺望。赤瓦の家並から、町の発展ぶりが伝わる。豊かさの源は漁業による収入だった。写真奥、左側の濃い島影は糸満で「アナギ」と呼ぶ島だが、1960年代の埋め立てで陸続きになった。アナギの一部だった岩は今も残り、拝所になっている(写真:朝日新聞社) 海に素潜りで入り、地元でウーギンと呼ぶ、先端にかえしのない銛(もり)で仕留めた魚をサバニに上げる漁師たち。魚は鋭い口先を持つダツ。光に反応して突進する性質がある。今も漁船に乗る玉城亀助さん(85)ら複数の人によると、「豊漁とともに、ダツよけをお願いする祭祀(さいし)、ヒーダチの御願があった」と話す。糸満市史によると旧暦4月10日以前の吉日を選んで執り行われた。(写真:朝日新聞社) 久高島で12年に1度行われる祭事「イザイホー」の場、久高殿の「神アシャギ」。今も同じ場所にある。島に詳しい赤嶺政信・琉球大学教授は「祭事の前には神アシャギ周りの草を刈るため、写真ほど伸びることはない」と語る。朝日新聞「海洋ニッポン」連載よりも前で、祭事の間が空いて草が茂る時期であることから、「35年5月ごろの取材だったのでは」とみている(写真:朝日新聞社) 久高島では西海岸の崖の陰で、遺体を納めた木棺を置き、12年に1度、とら年の旧暦10月20日に一斉に棺(ひつぎ)を開け、遺族が洗骨した。棺の上のわらじや杖は、死者が無事に彼岸にたどり着けるようにという意味がある。骨は、写真中央に見える陶器や石でできた家型の「厨子甕(ずしがめ)」などに納め、正式な墓所に葬った(写真:朝日新聞社) 戦前に現在の那覇市東町にあった「那覇ウフマチ(大市)」と呼ばれた市場の様子。路上で商品を並べて露店販売をする人々もおり、にぎわった。背後の建物には「大迫商店」の店名が確認できる。当時の地図と照合すると、野菜や雑貨を販売していた通り沿いの、海産物などを販売する「大迫海産」の店先と思われる。(写真:朝日新聞社) 那覇市内にあった雑貨店の様子。庶民が日常的に生活物資を買い求めていた市場とは雰囲気が異なる。市内にいくつかあった百貨店内だろうか。店内にはキューピー人形がディスプレーされているほか、ボンタンアメの広告が確認できるなど、店の品ぞろえの豊富さが分かる。1935年当時から、沖縄にも商品経済の波が訪れていたことが見て取れる(写真:朝日新聞社) 圧搾機を使い、黒糖の原料となるサトウキビの汁を搾り出す美里村古謝の農民たち。古謝は1933年、沖縄県から「糖業経営改善指導部落」と指定を受け、サトウキビの品質向上や収穫量増加を目指した。圧搾機は村の農家で構成する「共同製糖組合」が30年代に購入。利用は1日1世帯に限られており、予約表に基づいて農民たちはサトウキビの収穫日程を調整していたという(写真:朝日新聞社) 写真:朝日新聞社 写真:朝日新聞社 写真:朝日新聞社 写真:朝日新聞社 写真:朝日新聞社 写真:朝日新聞社 写真:朝日新聞社 写真:朝日新聞社 写真:朝日新聞社 大阪朝日新聞連載「海洋ニッポン」

戦前写真 数百枚は貴重

 沖縄戦以前に撮影された沖縄の写真は、1853年にペリー艦隊が琉球の民衆を撮影して以降、カメラを持参した外国人や鹿児島の寄留商人ら、外来者によって撮影された写真が最も古いとされる。

 1800年代末以降になると、那覇市内に写真館ができ、守礼門や波之上など、沖縄らしい風光明媚(めいび)な建物や自然の風景を絵はがきにあしらった写真が広く撮影された。鳥居龍蔵、鎌倉芳太郎、日本民芸協会の関係者ら、主に知識人や文化人による調査で、文化財や建築物、祭祀(さいし)や民俗などの写真群が多く撮影されている。

 写真技術は大正から昭和期に沖縄でも次第に一般化した。だが45年の沖縄戦によって、多くの人命と共に戦前撮影の写真をはじめとする多くの資料が消失。

 戦前の画像資料は、県内より県外で確認されることが多くなった。当時は機材も高価だったため、個人で少数の写真を保管していることがあるが、数百枚の規模で戦前の沖縄の写真が確認されるのは珍しい。

撮影年特定 写真に価値(那覇市歴史博物館学芸員 外間政明氏)

 写真のプロが戦前の沖縄の取材に基づいて撮った多くの写真がよく残っていたと思う。戦前の写真は撮影時期が不明なものも多いが、1935年の沖縄とはっきり分かることも、写真の価値を高めている。

 明治40年代ごろから、全国的に絵はがきのため日本各地の風光明媚(めいび)な場所などが写真撮影されるようになった。今回は観光用の沖縄の風景や個人撮影の記念写真などとは異なり、農業や漁業や市場などの人々の暮らしや生活を撮っている視点が特徴的だと感じる。

 21(大正10)年以降に大型船が沖縄を発着するようになった。37(昭和12)年には大阪商船がパッケージツアーを売り出し、団体の観光客を受け入れるようになる。戦時色が強まると船は軍用にされるが、確認された写真からは戦争の影はまだ感じられない。

当時の社会情勢分かる(沖縄国際大学教授 吉浜忍氏)

 沖縄戦に向かう社会情勢を知る上で貴重な資料だ。写真が撮影された1935年は満州事変(31年)後、日中戦争(37年~)前で、沖縄も含めて日本が総力戦体制に向かう状況。ソテツ地獄(30年初頭)が尾を引き、世界的な不況で日本全体も経済的に疲弊している時期でもある。沖縄戦の前に、国民徴用令が施行(39年)され、人的、物的資源がすべて戦争に向かっていく前段階にある。

 沖縄の農村、漁村、山村も含めて疲弊した状況ながら頑張っている姿が紹介されており、模範的な姿として描きたいという意図があったのではないか。背後に戦時の総力戦体制に向かう社会的な雰囲気を感じる。

 当時の資料は数が少なく、懐かしい風景がまとめて確認されたのは貴重だが、どのような意図で撮影され、受け入れられていたのかも踏まえる必要がある。

写真集「沖縄1935」発売

 戦火に包まれる前の沖縄がよみがえります。待望の写真集が朝日新聞出版から全国販売。「糸満」「那覇」「久高島」「古謝」と地域ごとに章立てされ、82年前の人々の生き生きとした様子が鮮明なモノクロ写真で紹介されています。

 ■朝日新聞出版

 ■A4判変型

 ■1,800円(税抜)

  全国の書店のほか、大手通販サイトamazon等でも購入できます。

写真集 沖縄1935
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