恐れることなく他者へと自らを開くこと。未知のものへと向かうこと。相反するように見えるものの間に、あるいは二つの場所に同時にいること。それが「旅」なのだと、レジーヌ・ショピノは言う。

身体感覚の旅(大阪大学出版会・2484円)

 コンテンポラリー・ダンスの舞踏家であるショピノが、ダンサーで美学者の富田大介と出会い、協働作業を通して生まれたのがダンス・歌・音楽からなるプロジェクト「パシフィックメルティングポット=PMP(太平洋の坩堝(るつぼ))」である。アルジェリアで生まれ育ったフランス人であるショピノが、ニューカレドニア、ニュージーランド、そして日本という島々のダンサーや音楽家、映像作家と織り上げたプロジェクトは、目的地のない旅のようなものだ。

 直進せずに、迂回(うかい)し、彷徨(うろつ)きながら生成変化する旅。そのプロセスを雄弁に物語るのが、本書に挟み込まれた4編の映像である。(読者はここで本から映像への旅をも経験することになるであろう!)

 ショピノやジョアン・ガルシアらによる共同監督作品である2編は、ピリピリとした緊張感の中に、研ぎすまされ、「かたち」になってゆく「PMP」を捉える。

 山城知佳子、砂川敦志による2編のドキュメンタリー映画は、まだ「かたち」も見えない、旅の途上にあるプロジェクトをその混沌(こんとん)の中に追う。風にそよぐ葉やワークショップの会場に差し込む光のみならず、足と床がふれ合う界面から発する音までも映像化する山城と砂川は、やがてカメラと一体化し、自らの身体をもってプロジェクトの中へと入ってゆく。

 詩、自伝、批評、写真、映像といった多様なテクストがちりばめられた本書を通じて、私たち読者もまたいつしか身体感覚の旅をし始めるであろう。立ち止まったり、ペースを上げたりしながら、それぞれのテクストが持つリズムやトーンに身体を共鳴させ、他者と自分、過去と現在と未来とが不可分に共存する場所へと、私たちも旅立たずにはいられなくなるはずだ。(菅野優香・同志社大准教授)

 【著者プロフィール】とみた・だいすけ 1976年生まれ。追手門学院大准教授▽著者=梅原賢一郎、本間直樹、高嶋慈、那須誠、レジーヌ・ショピノ、瀧一郎▽映像=山城知佳子、砂川敦志、ジャン=バティスト・ヴァリュゼルほか