「戦前は決して平和な時代ではなかった」。先日、読者からお叱りのメールが届いた。5日付1面で報じた朝日新聞記者が撮影した戦前の沖縄の写真発見との記事の「82年前、平和世の記憶」との見出しへの指摘である
▼1931年に満州事変が起き、戦前の沖縄では徴兵忌避もあった。第2次大戦前で平和的な雰囲気はあったが、目に見えない制度としては決して平和世ではなかった、との内容だった
▼写真撮影の10年後に起きた沖縄戦と対比し「平和世」としたが、認識不足も痛感した。同時にはっとしたのは、戦後72年との表記も、実は「戦後」は誤りで、すでに私たちは「戦前」を生きているのではということである
▼表現の自由を脅かす「共謀罪」法が成立しようとしている。与党は委員会採決を省略し、参院本会議で押し切る構えだという。野党の求めた熟議は「数の力」で吹き飛ばされ、民主主義は瀕死(ひんし)の状態にある
▼特定秘密保護法、集団的自衛権の行使を認める安保法、そして今回の「共謀罪」法案。安倍政権の誕生後に成立した法律で、私たちは後戻りできないところまできたのかもしれない
▼82年前の写真に写る人々の暮らしや風景は、わずか10年後に戦火で消えた。読者の方から届いたメールは、「戦前」を生きる私たちへの警句のようにも聞こえる。(稲嶺幸弘)